研究課題/領域番号 |
22520740
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研究機関 | 金沢大学 |
研究代表者 |
田中 俊之 金沢大学, 歴史言語文化学系, 教授 (00303248)
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キーワード | 中世史 / スイス / 地域社会 / 紛争 / 統合 / 盟約者団国家 |
研究概要 |
本研究の目的は、盟約者団を中心とした政治的枠組みの拡充による国家形成という独自のあり方を示したスイスの15世紀について、盟約者団加盟前のスイス北西部の都市バーゼル周辺の領域がどのような地域統合のあり方を示していたのかを分析することである。研究実施計画に示したとおり、シスガウ・ラント裁判区内のラント裁判記録を史料として解読・分析することにより、研究目的へのアプローチを試みた。 ラント裁判記録の分析から明らかになったのは、農民による自治的な運営組織が裁判区を枠組みとして形成されていたこと、場合に応じてそれをいわば保証する役割を果たしていたのがハプスブルク系の有力在地領主であったこと。このことは、地域の統合におけるハプスブルク家の一定の役割を示唆するものであり、スイス・ハプスブルク研究の可能性を開くという点でも意義のある結果が得られた。 成果は、論文「中世末期スイス北西部のラント裁判におけるコミュニケーション-イムリ紛争に見る地域社会の自律性と秩序形成-」(『比較都市史研究』30巻1号)として公刊、また史料翻刻とともに本裁判記録成立のプロセスと特徴を分析した論文「15世紀後半北西スイスのラント裁判史料(その2)-イムリ紛争:第4回公判、primus、secundus-」(『金沢大学歴史言語文化学系論集』4号)も公刊した。さらに所属大学・学類で開催したシンポジウムにおいて成果の一部を発表し、その内容は加筆・修正したうえで講演録としてブックレット『歴史学の可能性』に掲載された。 史料の解読・分析ならびに考察の結果、新たに課題認識した諸点については、次年度の課題として検討することを確認。他方、本年度の研究実施計画ではスイス東南部についても検討し、スイス北西部との比較をおこなう予定にしていたが、二兎を追うこととなるため、そちらは今後あらためての研究課題として取り組むことにしたい。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
海外渡航により公文書館において専門家と情報交換ができたこと、不明の点について直接ご教示が得られたことが、史料解読を前進させ、研究を順調に進展させた要因になったと思われる。
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今後の研究の推進方策 |
史料分析を通じて浮かび上がってきた課題を今後は追究する。具体的には以下のとおり。ハプスブルク系貴族の存在が農民を中心とするラント裁判の機能を高めたことが明らかになった。ひいてはそのことがスイス北西部においては地域の統合を促す要因の1つたりえたと見込まれる。そこで、他の研究文献にもしばしば言及のあるバルトエック家を中心に、ハプスブルク系貴族の地域における役割を、都市バーゼルの勢力拡大による変化をもふまえて解明する。 「移動」という観点、ならびにスイス北西部とスイス東南部の比較は本研究課題においては今後の課題とせざるをえない。
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