研究課題/領域番号 |
22520744
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
南川 高志 京都大学, 文学研究科, 教授 (40174099)
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キーワード | ローマ帝国 / ゲルマン人 / 属州 / ゴート族 / テオドシウス1世 / ユリアヌス帝 / フランク族 / アラマンニ族 |
研究概要 |
本研究の第2年目にあたる本年度は、昨年度から継続している政治動向の分析と対象時期の遺跡・遺物を調査することに重点を置いて、研究活動を実施した。当該時代の基本史料であるアンミアヌス・マルケリヌス『歴史』などに加えて、ローマ法史料やキリスト教徒作家の作品についても、研究動向とその特徴をおおよそ把握できた。また、劣悪な5世紀の政治史史料の状況についても、例えば『452年のガリア年代記』などに至るまで、史料テクストや関連研究文献を収集できたことは成果であった。本年度は、研究費の多くを外国調査旅費に充てるように変更したが、これは、夏の外国調査の結果、さらなる調査が必要と判断したからである。第1回目の夏の外国調査では、文献資料に関する調査をおこなうと同時に、同じ分野の研究をしているオックスフォード大学やケルン大学のスタッフと意見交換した。法史料の扱いに関する助言を得る予定であったオックスフォード大学名誉教授ファーガス・ミラー卿は、緊急手術を受けるために面会できなくなったが、オックスフォード大学の若手研究者と意見交換できたことは成果であった。ケルン大学でも、ヴェルナー・エック教授のもとで古典学・古代史の図書室を充分利用できたことも、文献資料や法史料の研究に役立った。さらに、古代終焉期のフランク族の動きを知るために、オランダとドイツの博物館や遺跡を調査し、考古学研究の成果を現場で検証した。2度目の外国調査では、計画調書で明記していたロンドン大学のP・ヘザー教授との意見交換をおこない、ゴート族研究の専門家たる同教授から多くの教示を得た。また、ケンブリッジ大学で研究文献調査とCh.ケリー博士との共同研究を実施できたが、5世紀のフン族に関する好著を刊行したばかりの同博士からは、5世紀の政治史の理解に有益な助言を数多く与えられた
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究が目指しているのは、イタリア中心のローマ帝国政治史ではなく、ローマ・ゲルマン民族抗争史でもない、新しい帝国解体期政治史の研究である。そのために、属州考古学研究の成果を取り込んだ政治史研究と、「ゲルマン人」に一元化されない、多様な集団の解明とを試みてきているが、いずれについても文献の分析と考古学的研究の現場における検証とが順調に進んでいる。とくに、ローマ法史料の分析によって、帝国の東西の分裂が4世紀末よりももっと早くから見られることに気がついたのは重要な成果であった。ただ、小さな研究会を開いて若手の意見を聞く計画は、12月に主催した別の研究会で一部議論をするに留まったので、今後の課題として残っている。
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今後の研究の推進方策 |
海外での文献調査や研究者との意見交換、そして考古学的研究の成果の現場における検証が大きな効果を発揮しているので、計画調書通り、今後も海外調査を実施する。平成24年度は、ドイツの大学に拠点を置いてローマ帝国のアルプスより北の諸属州の遺跡と遺物を調査する。また、文献資料分析に基づく考証と同時に、ローマ帝国「衰亡史」に関する研究史、学説史の見直しを本格化させることも予定通り実施する。研究成果の一般への発信である新書執筆作業は、本研究の進んでいる5世紀初頭まで完了させる予定である。おおむね計画調書通りに進行しているので、研究の方法や観点の点で計画の変更は現段階では考えていない。
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