本研究の最終年度にあたる平成25年度、私はこれまでの研究成果をまとめると同時に、3年間の研究では不足していた領域を充実させることに力を注いだ。 まず、研究成果に基づいて昨年度から執筆していた岩波新書を、『新・ローマ帝国衰亡史』として刊行した。さらに、この書物執筆で用いた参考文献の情報を、「研究覚書」として『西洋古代史研究』第13号誌上で明らかにし、帝国衰退に関する私の叙述の学術的な基礎を広く提示した。これによって、「帝国」としてのローマの解体に関する私の考えを平易に伝えることができたと考えている。 大きな課題である「ゲルマン人」問題については、予定通り外国調査を実施して、ウィーン大学やオーストリア国立図書館で5世紀史の関連文献を調査するとともに、オーストリア科学アカデミーの中世研究所を訪れて、マクシミリアン・ディーゼンベルガー博士らと長時間意見交換できたことが貴重であった。これによって、「ウィーン学派」の考え方についての理解が進んだからである。いまひとつの課題である「フン族」についても、私費による調査旅行でケンブリッジ大学を訪ね、専門家であるクリストファー・ケリー博士から教示を得ることができた。しかし、フン族集団の正体などは資料不足のために依然不明な点も多く、今後に課題を残した。 年度末の3月8日に「後期ローマ帝国史を解明する新たな試みNew Approaches to the Later Roman Empire」と題するワークショップを、京都大学で主宰することができたのも、本研究にとって大きな成果であった。このワークショップでは、解体期ローマ帝国に関する「古代末期」派の学説の再吟味をおこなうとともに、帝国貴族層に焦点を当てて当該時代の実相に迫る議論ができたことが最も重要な成果であった。多くの貴重な意見を聞くこともでき、今後の研究に生かしたいと考えている
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