本研究は、ローマ帝国を地中海周辺ではなく、アルプス以北の地域に視点をおいて、その解体過程を検討したものである。イタリア中心の政治史ではなく、ローマ対ゲルマンの二項対立に基づく民族抗争史でもない、人々や集団のアイデンティティの重層性や可変性を重視する研究を実施した。そして、成果を踏まえて、帝国としてのローマの崩壊を5世紀初めとみる歴史叙述を著書『新・ローマ帝国衰亡史』として発表した。「ゲルマン人」の扱いなど重要な論点に関する研究を生かして、古代終焉期における継続的要素を強調する古代末期派の説と異なり、ローマ人としてのアイデンティティの喪失から帝国の解体を強調する独自の見解を提示した。
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