主に16~17世紀初頭におけるハンガリー王国の一体性ないし「ハンガリー国民」の一体性に関わる言説の分析に取り組んだ。具体的にはモハーチ敗戦の後に流布した、「ハンガリーの愁訴」や「甘し国ハンガリー」などのトポスを含む宗教的、政治的あるいは文学的作品について検討を加えた。その結果、これらのトポスが形を変えつつも、近代に見られる国民国家に関わる言説に受け継がれていったことが確認された。その成果の一部を、2010年9月2日にハンガリーのペーチ大学で行われた研究会にて、「近世ハンガリーにおける知識人たちの描く『トルコ人』像」という報告のなかで発表した。 また2010年7月31日に「イスラーム世界における伝統継承に関する研究会」(京都大学)において、「ハンガリー聖王の伝承」という題目で報告を行った。その報告内容を聖ラースロー伝承に見られる異教徒認識を軸にまとめなおし、中世における異教徒認識が15世紀以降のオスマン帝国認識へとつながっていった可能性を指摘した(「中世ハンガリー王国の聖王伝承における魔」。同研究会の平成22年度報告書に投稿中)。しかし、中世神学がモハーチ敗戦に関わる言説に及ぼした影響について成果をまとめるには至らなかった。 2011年2月12日~20日にハンガリーのブダペストに滞在し、ハンガリー科学アカデミー図書館ならびに国立セーチェーニ図書館において、近世の「トルコもの」と称される出版物に関する研究を中心に、関連文献を閲覧あるいは収集した。
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