研究課題/領域番号 |
22520747
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研究機関 | 熊本大学 |
研究代表者 |
丹下 栄 熊本大学, 文学部, 教授 (10179921)
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キーワード | 西欧中世 / カロリング期 / 所領経営 / アダルハルドゥス / エリート |
研究概要 |
2011年度は前年度に引き続き、アダルハルドゥスの指令書を主として組織管理の視点から分析した。指令書は修道士の日常生活や外来者の接待・貧民の給養に必要な食糧や衣類について詳細に規定している。こうした規定は他の史料類型にも見られるが、指令書のそれば、規定人数を超えた貧民が救済を求めた際の対応を定め、状況に応じそ実務担当者の裁量を認めるなど現実を重視した柔軟性を特徴としている。こうした柔軟性は指令書の内部資料としての性格に由来していようが、同時代の多くの修道院と異なり、修道院財産の分割が行われなかったというコルビー修道院の独自のあり方と関連していた可能性も考えられる。指令書の分析と並行して、中世初期エリートの知的基盤を解明する作業の一環として、修道院における財産分割を認証する文書がどのようなコンテクストで作成されたかについて、旧稿を近年の研究成果を参照しつつ改稿・フランス語化し、査読付き論文として公表した。そこでは、こうした文書は指令書に較べれば規範的性格がより強いものの、その経営に修道士が関わる度合いが強い財産ほど文書により具体的に記述され、また文書の更新にあたっても先行する文書にとらわれず現況を正確に記録しようりとする指向が強いこと、その背後にはカロリング期の教会・宮廷エリートの多くが身につけていた、事物のあるべき姿よりは現況を記録することを優先させる指向があったことを仮説として提示した。昨年度の研究は、カロリング期の社会変革比おいては、アニアヌのベネディクトゥスが主導した多分に理想主義的な指向とともに現実に柔軟に対処しようとする指向もまた一定の重みを持っていたのではないかという新たな問題を浮かびあがらせた。今後こうした問題についても検討を深めていきたい。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
この研究にとって基本的な史料の1つとなるアダルハルドゥスの指令書を分析する作業がおおむね順調に進み、また研究動向の調査もほぼ予定通り進んでいるため、(2)に該当すると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
今後はアタルハルドゥス指令書の分析結果を記保素材として他の史料との突き合わせや、この史料をカロジング期政治・文化史のコンテクストのなかに位置づける作業を本格化する予定である。作業の効率化をはかるため、必要に応じて史料情報をデータベース化することとしたい。
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