研究テーマに関連し、24年度はとりわけ、19世紀フランスにおける子どもと家族のイメージというテーマに関連した研究を行った。そして、セギュール夫人、エクトール・マロ、ジュール・ヴェルヌなどの作品を取り上げ、そこに描かれる子ども像について分析を行った。その結果、以下のことを明らかにした。子ども向け読み物は、19世紀においてもなお、18世紀に確立された純真な「良い子」を理想としている場合が多いものの、一筋縄ではゆかない個性の強い子どもも登場させて、性格の異なる子ども一人一人に対し、親が向き合う時代の到来を予感させること、革命期に見られたような悲劇的な結末には至らず、家族の絆を取り戻しハッピーエンドとなる点で教育的配慮が見られること、広い空間を旅するという筋書きが、フランスという国民国家の存在を広く子どもに知らしめる役目を果たした一方で、スリルや冒険の要素が加わり長編小説の体裁が完成され、今日の児童文学のスタイルを確立させたことである。 また、バルザックやフローベール等の文学作品を題材として、家族像、とりわけ母親のイメージの解析も試みた。そこでは、「近代家族」イメージの普及と医学の発達によって女性=母性というジェンダーの壁が築かれ、その枠の中におさまることのできない女性たちが、時に子どもを虐待してしまうような情景が描かれていたことを明らかにした。 そうした分析を、それまでの研究成果とあわせて、「17~19世紀における家族と子どものイメージ」という論考にまとめた。そしてこれを第1章として、予定通りに、『子どもたちのフランス近現代史』(山川出版社)を刊行することができた。ちなみにこの本の第2章は、23年度に行った民衆世界の子どもに関する内容、第1章は、21年度に行った第一次世界大戦と子どもに関わる内容、第4章は、22年度に行った第二次世界大戦期の子どもに関する内容である。
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