研究課題/領域番号 |
22520750
|
研究機関 | 大阪府立大学 |
研究代表者 |
佐々木 博光 大阪府立大学, 人間社会学部, 准教授 (80222008)
|
キーワード | カルヴァン派 / 救貧 / 執事 / 資本主義の精神 / 贈与の精神 / シュネッケンブルガー / 予定説 / 共同体の宗教改革 |
研究概要 |
二度の海外出張を行った。トルン市(ポーランド)で行われた騎士修道会学会で、カトリックとルター派の職業倫理の違いに関して理解を深めた。スイス出張では宗教改革に関する二つの研究機関(チューリヒ大学スイス宗教改革史研究所、ジュネーヴ大学宗教改革史研究所)の所長、ローザンヌ大学歴史学研究所のクリスチャン・グロッセ教授に招待され、当該研究に対する好意的なコメントと貴重な示唆を得た。各研究機関の説明も受けた。三者から宗派による職業倫理、救貧政策の違いを考察するうえで必要な文献、史料の指示を受けた。カルヴァン派の共同体にも救貧を担当する執事と呼ばれる職があり、この職は半官半民の様相を呈した。これはウェーバーの説く資本主義の精神と異なるエートスで運用されていた可能性がある。わたしはそれを贈与の精神と名づけ、そこにヨーロッパ近代の重要な特徴を見た。スイス出張中はベルン大学歴史学研究所のお世話になり、ヴェーバーの予定説に関する立論に影響を与えたベルン大学神学教授のマティアス・シュネッケンブルガー(1804-1848)の考察に従事した。シュネッケンブルガーは確かにカルヴァン派の予定説を重視したが、ヴェーバーと異なり、予定説が信者を不安に陥れるとは考えていなかった。むしろ彼はカルヴァン派の改革が共同体の宗教改革であったことを強調する。その彼が特に重視したのが上述の執事制度であった。ベルン滞在中に歴史学研究所と医療史研究所で当該テーマに関する招待講演を行い、現地の研究者と活発な意見交換の機会を持った。原稿は上記三名以外にドイツのヴェーバー研究、宗教改革研究、救貧研究のそれぞれ第一人者であるハルトムート・レーマン教授、ペーター・ブリックレ教授、ロバート・ユッテ教授他に送付し、好意的な評価と貴重な示唆を得た。特にユッテ教授とは帰路のシュトゥットガルトで実際に面会する機会を得、貴重なコメントをいただいた。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
ベルン国立公文書館でマティアス・シュネッケンブルガーの遺稿類多数を発見した。講義録のなかには、シュネッケンブルガーがヴェーバーとは違ったふうにカルヴァン派の予定説を理解していたことを示唆する文書が散見し、特に重要と思われる史料一点を撮影した。現地でもほとんど知られていない人物、その業績を発掘したことで、現地の研究者の期待を集めた。
|
今後の研究の推進方策 |
シュネッケンブルガーの遺稿を発見したことで、手稿史料の解読という作業があらたに加わった。ヴェーバーのテキストと彼が予定説に関する示唆を得たシュネッケンブルガーのテキストの比較検討は、未知の未公刊史料の発見によってさらに大きな成果が期待できるものとなった。シュネッケンブルガーが着目し、ヴェーバーが看過したカルヴァン派の執事制度が、その後のヨーロッパのフィルアントロピー(私的慈善)の発展にもった意義を、他宗派やユダヤ教の慈善との比較のなかであきらかにすることが、今後の課題となる。
|