研究課題/領域番号 |
22520751
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研究機関 | 広島市立大学 |
研究代表者 |
田中 利幸 広島市立大学, 広島平和研究所, 教授 (10329336)
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キーワード | 精密爆撃 / 核戦略 / 無差別爆撃 / 米空軍 / 朝鮮戦争 |
研究概要 |
平成23年度は、国立公文書館、国会図書館ならびに米国立公文書館において、主として以下の2点に関する資料の探索と収集に合計で1ヶ月以上を費やした。 (1)国立公文書館、国会図書館においては、昨年度完了できなかった、原爆投下直後の政府関係者の反応と対応に関する公文書ならびに朝鮮戦争関連の二次資料(主として英文出版物文献)の探索と収集を行った。(2)2012年2~3月に2週間以上かけて、米国立公文書館において行った調査では、当初の研究計画には全く入っていなかった資料の探索と収集に当たった。それは、以下のような理由によるものである。研究を進めるうちに、1950年代の朝鮮戦争期には、米国務省ならびに国防省が、北朝鮮や中国に対して核兵器の使用を、一時期、真剣に検討していただけではなく、さらにはソ連の朝鮮戦争介入の可能性も考え、核兵器の日本(とくに北海道)への持ち込みも検討していたことが判明。しかし、その一方で、「Atoms for Peace(原子力平和利用)」政策を打ち出し、いわゆる「自由主義諸国」すなわち親米諸国への核技術の輸出を積極的に推進した。したがって、こうした一見相反する米国の政策を、核戦略作成にあたっていた米空軍戦略空軍司令部ならびに、核兵器製造の任務に当たっていたAtomic Energy Commissionはどのように考えていたのか、という重大な問題があることに気がついた。さらには、Atoms for Peace(原子力平和利用)を打ち出したアイゼンハワー政権で、なぜゆえに米国の核弾頭の保有数が1千発から2万2千発にまで急激に増大してしまったのか。その背後には、いかなる核戦略の変更があったのか。その核戦略の変更と朝鮮戦争における実際の空爆拡大との関連性の問題を考慮しないでは、当研究のテーマである、米空軍における「精密爆撃」と「無差別攻撃」の併存という矛盾がいかなる経緯をへて産まれたのかを分析することは不可能である、という認識に達したからである。そこで、米国立公文書館での今回の資料調査では、Atomic Energy Commissionが作成した、1950年代の「Atoms for Peace(原子力平和利用)」に関連する資料収集を集中的に行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
「研究実績の概要」で説明したように、当初の研究計画に全く入っていなかった重要な問題、すなわち、朝鮮戦争期に米政府によって突然推進された「原子力平和利用」と「核戦略の拡大」との間の関連性という問題を考察する必要があることに気がつき、この問題に関連する一次資料の探索に時間を費やさなければならなかったため。
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今後の研究の推進方策 |
当初の研究計画に入っていなかった「原子力平和利用」と「核戦略の拡大」との関連性の分析により、研究分析により深みと広がりが出てくることが予測されるので、研究の最終結果には積極的な意味をもつものであると評価できる。したがって、研究計画の進展がやや遅れているとはいえ、全体的に見れば、研究の質そのものは高まっているので、全く問題はないと判断できる。今後は、当初の研究計画に含まれていた資料探索と分析を着実に進めていく予定である。
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