研究初年度にあたる今年度は、国内における基本的な史料の所蔵状況を調査した。さらに、マイクロフィルム化された史料の入手の可能性について調査した。その結果、日本国内の各図書館における20世紀初頭のロシア帝国関連の文献所蔵について概要を把握するとともに、マイクロフィルム化された諸史料の入手を進めた。後者ではカデット党機関紙『レーチ』の第一次大戦期に刊行された部分を入手した。さらに、帝政ロシア・ソ連、ならびに同時代の諸帝国について基本的な研究書を読み、研究史の把握につとめるとともに、他地域と比較したときのロシア・ソ連の独自性と一般性について考察を進めた。論文「ネップ期ソ連における国家と都市管理」においては、1920年代ソ連の都市管理について、連邦制の国家構造が地域間の連携を妨げているなど、帝国論の観点からあらたな知見を提示することができた。論文「社会主義の都市イデア」では、有機的な都市イメージという社会主義の都市イデアを解明する中で、「帝国的な」国家秩序が1930年代のソ連政治に与えた政治文化的影響を明らかにした。報告Cultural and social relations between Russia and Japan during WWIでは、日本帝国の天皇制的国家秩序が同時代のロシア新聞・雑誌においてどのように理解されていたかを分析した。分析の結果、国民統合が進んでいた日本の天皇制を論じることは、同時代のロシア帝国の評論において、自国の専制を評価・批判するための独自の参照系となっていたという論点を提示した。この報告は、日露両帝国の比較研究におけるあらたな視角を示し得たものであり、現在、英語論文として発表すべく、準備を進めている。
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