4年間の研究成果のまとめとして、池田嘉郎編『第一次世界大戦と帝国の遺産』(山川出版社)を2014年3月に刊行した。これは池田を含む9人の執筆者の論集であり、池田は全体の企画立案および編集を行ない、さらに「序論 第一次世界大戦をより深く理解するために」および「コーポラティヴな専制から共和制の帝国ソ連へ」を執筆した。「序論」の方においては、「共和制の帝国」ソ連が出現する背景となった第一次世界大戦について、ロシア史のみではなく世界史および20世紀史という大きな文脈のもとで論じた。第一次大戦によるヨーロッパの地位の低下とアメリカ、ソ連、日本の台頭という点、および総力戦による住民の生活の再編という点、このそれぞれについて、「帝国」とその遺産という視座から歴史的位置づけの再検討を行なった。また、もう一つの論文においては、4年間の研究成果のエッセンスを整理した。ロシア帝国末期の民族統合における、身分、地域、信仰、エトノスなどの多元的単位の存在;第一次大戦の総力戦体制によってエトノスが近代的政治主体としてのネイションに転化しつつあった(ただしエリート層に限り)こと;帝国周縁部の地元エリートが「ネイションの自決」を実現しようとするに際して、「独立」ではなく「自治」という枠組を最重視したことなど、本研究において得られた認識を明快に叙述した。さらに、1917年2月に帝政が倒れたのち、帝国的広域圏の維持と、各エトノスのナショナリズムへの配慮とのハイブリッドとして「共和制の帝国」ソ連が成立する過程についても整理した。4年間の研究成果全体についての成果発表は、研究書(単著)の形で行なわれる予定である。
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