本研究は、古墳時代前半期(前期~中期前半)の小型古墳にかかわる墳墓要素を汎列島規模で検討することにより、小型古墳被葬者間を結ぶ広域的な結びつきの存在を明らかにすることを目的としている。また、そうした作業をつうじて、大型古墳(有力首長)の分析とは異なる視点から、古墳時代前半期における政治秩序の形成過程を解明することを目指している。 以上の目的を達成するためには、対象資料の詳細な内容を把握するための資料調査を実施する必要がある。本年度は、長野県中山36号墳(松本市考古博物館)、静岡県鳥羽美古墳(島田市博物館)、同城山古墳(島田市博物館)、愛知県豊橋市所在古墳(豊橋市美術博物館)、千葉県内石枕出土古墳(千葉県立中央博物館)、福岡県神領古墳群(宇美町立歴史民俗資料館)について資料調査を行った。 こうした調査と併行して、古墳時代前半期の墳墓群に関する文献収集とパソコンへの情報入力作業を行った。この作業は、小型古墳の諸要素を分析していくために欠かせないものであり、昨年度に引きつづき東海地方の資料を中心に作業を進めた。 以上の結果、本年度は、各地の前半期小型古墳を比較していくための基礎資料をさらに充実することができた。また、本研究に関連して東日本における斜交埋葬施設の検討をおこない、当該埋葬施設が前方部短小タイプの前方後円墳に多く認められる事実から、すでに古墳時代前期初頭の段階で従属的な性格をもつ古墳が出現している可能性を認識するにいたった(「東日本の斜交埋葬施設」『筑波大学先史学・考古学研究』23号)。この点は、古墳時代における階層的な政治秩序の初現を把握するうえで重要であり、その後につづく小型古墳の展開とあわせて、今後の研究の中で評価していく必要がある。
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