本年度は、これまでの研究をまとめるために、不足している部分の補足と総合的な検討を進めた。 第1に、朝鮮古蹟調査関連写真については、これまでの調査研究成果を、写真撮影者を軸として整理する作業をおこなった。その結果、1910年代までは、写真技術を身につけた人物が調査員に加えられることが多く、彼らはその実地経験を生かして、写真撮影以外にも現地調査において大きな役割を果たしたことを明らかにした。また、慶州の東洋軒写真館のような各地の写真館が、古蹟写真の撮影において果たした役割を注目すべきであることを指摘した。さらに、写真撮影者を同定するために、焼付写真の大きさの違いが有効であることを示した。 第2に、慶州の遺跡関連写真の評価を深めるために、これまで収集してきた資料をもとに、日本各地の図書館所蔵資料の閲覧を進め、植民地時代慶州古蹟関連文献目録を作成した。その結果、慶州における古蹟関連文献の種類・刊行者・再版回数などは、時期によって異なり、そうした変化が、慶州における古蹟調査および保存事業の進展や、慶州の観光地化、そして写真のもつ意味の変化と密接に関連した、という見通しを立てることができた。 第3に、これまでの研究成果をもとに、国立金海博物館および国立大邱博物館における朝鮮古蹟調査事業の再検討作業に協力しつつ、京都大学考古学研究室所蔵の金海貝塚関連写真・実測図や、徳島県立鳥居龍蔵記念博物館所蔵の金海貝塚関連実測図を、大韓民国に残された資料とつきあわせて総合的に検討する作業を進めた。 これまでの4年間の研究成果は、今年度末に報告書(本文106頁、図版8頁)としてまとめ、日本国内および大韓民国における主たる研究機関および研究者に配布した。
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