平成22年度の研究は東アジアにおける鉄精錬に関する研究資料の収集と、製鉄および鍛冶実験が主な内容であった。まず、研究資料収集については、国内では主として事例の豊富な中国山地における鉄精錬遺跡の精錬炉と鉄滓のデータを集めた。特に島根県域での発掘調査によるデータが一番充実しており、実際に各時代の遺跡地を踏査し、県立埋蔵文化財センターで出土遺物を観察した。外国については、今年度は中国での資料収集を計画したが、日中二国間で生じた問題等、諸般の事情でかなわず、急遽、韓国の北部を中心に遺跡踏査、遺物等の観察を実施した。韓国では原三国(三韓)時代(紀元前後~3世紀)の鉄器研究が進展しており、その中で、特に当該時代初期の鋳造鉄器のあり方が注目された。それらには中国からの輪入品および韓国産品があるが、後者の例は韓国内での銑鉄生産を意味するもので、それは韓国内での鉄生産および精錬の開始につながる、非常に重要な意味を持つ。また今回の訪問で、韓神大学校との共同研究の目処が立ったので、今後は鋭意、韓国内での検討を進めたい。 製鉄および鍛冶実験については、今年度は鉄鉱石および砂鉄を原料とする製鉄実験を実施し、さらに鍛冶実験を目指したが、目的とした銑鉄生産がうまくいかなかったので、精錬実験は今年度には実施できなかった。なお、実験については画像および文章で逐一記録した。 鳥取県内で実施した近世のたたら吹き製鉄遺跡(砺波たたら)の発掘は、島根県古代文化センターが主体となって実施したものであるが、大鍛冶生産の実態を明確にするために共同研究の形で参加した。このたたら場は明治年間に操業中に、東京帝国大学の俵国一博士によって冶金学的調査がなされたもので、実地の遺跡と文献記載内容が一致する重要なデータが得られた。
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