本研究は九州南部における古墳時代鉄器の基礎的研究を主題としている。九州南部では前方後円墳や当地域独自の墓制である地下式横穴墓・板石積石棺墓から副葬品として良好な遺存状況の鉄器が多量に出土しているが、これまで資料に即した基礎的研究は十分でなく、その実態は明確とは言えない。 本研究では基礎調査から重要資料に関する情報の再検討・整理を通じて副葬鉄器と墓制からみた多元的な古墳時代史像の展開を明らかにしようと取り組んでおり、平成23年度は前年度に引き続き鉄器出土資料の資料調査を通して、図面作成や写真撮影、X線写真撮影、顕微鏡観察など基礎データの収集を行った。 具体的にはえびの市島内地下式横穴墓群、日置市辻堂原遺跡、肝属郡肝付町北後田地下式横穴墓群、曽於郡大崎町神領10号墳などを対象として調査を進めている。これらの得られた情報等は本研究期間内に公表できるように整理を進めている。 また、九州南部の特質を明確にするために九州北部・山陰・近畿など他地域の古墳時代鉄器資料との比較研究を進めている。その成果の一部は国立歴史民俗博物館、えびの市や堺市などで講演会を通して公開も進めた。 本研究は古墳時代の生産流通・地域間交流・墓制の研究を統合的に進め、地域の側から日本列島国家形成期における境界領域の構造とその変遷に焦点を当てようと試みている。平成23年度は境界領域の構造に関する研究も進め、学会・論文発表も行った。
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