本研究は九州南部における古墳時代鉄器の基礎的研究を主題としている。 九州南部では前方後円墳や当地域独自の墓制である地下式横穴墓・板石積石棺墓から副葬品として良好な遺存状態の鉄器が多量に出土しているものの、従来その資料自体の分析に基づく研究が十分に進められてきたとは言い難い状況にあった。 そこで、本研究では研究目的に即した重要資料に関する基礎的な調査を積み重ね、その上で当該地域の独自性、近畿中央部との比較、あるいは広域共通性とその背景に関する検討を行い、多元的な古墳時代史像を明らかにしようと取り組んできた。 平成25・26年度は前年度に引き続き古墳出土鉄器の図面作成や写真撮影、X線写真撮影、顕微鏡観察など基礎データの収集を行し、その公表のための整理作業を行った。具体的にはえびの市島内地下式横穴墓群、宮崎市下北方5号地下式横穴墓、肝属郡肝付町北後田地下式横穴墓群出土資料などの重要資料について重点的に調査を進めた。 また、九州南部の特質を明確にするために九州北部・近畿など他地域の古墳時代鉄器資料との比較研究を進めた。それによって、古墳時代の生産流通・地域間交流・墓制の研究を統合的に進め、地域の側から資料に即した日本列島国家形成期における境界領域の構造とその変遷に焦点を当てた研究を進めた。その成果の一部は東北・関東前方後円墳研究会での研究発表を通して公開も進めた。その研究発表に関わる研究論考も発表している。 最終的に本研究に関わる成果は、『九州南部における古墳時代鉄器の基礎的研究』として、研究終了時に、論考と資料報告を収載した研究報告書を作成、刊行した。
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