漢代は古代中国世界の一つの到達点であり、統一を背景とした共通性が強調されることが多い。本研究は、歴史情報と地理情報に基づいて漢代の地域圏を整理して、考古学・文献史学・自然地理学という視点から地域圏を評価することで、漢代社会の構造を明らかにしようとするものである。城郭・墓葬・自然境界を分析の手段として地域圏を析出し、地域圏相互の関係に基づいて、漢という世界の共通性とは何であるのかを問う。 本年度は、華北地域東部の山西・河北・遼寧・内蒙古を中心とした漢代地域圏に関する基礎情報の整理を中心に研究を進めた。漢代歴史情報地図の作成にむけて、地理情報と歴史情報の集成や整理を進めつつ、その過程で深化した各視点からの地域圏の認識を対照して、「地域圏の析出とその評価」について議論を重ねた。 地理情報の集成・整理は阿子島功が担当し、高精度地図及び衛星写真を基礎資料として、地形利用図の作成に取り組んだ。歴史情報の集成や整理は上野祥史と杉本憲司が担当した。発掘報告書及び文物地図集を基礎資料として、遺跡・遺物情報の集成・整理を進めるとともに、『漢書』『後漢書』等の文献資料を基礎資料として、対象地域に関する情報を整理した。 漢代の地域圏に対する検討は予察の域にとどまるが、考古情報や文献情報という資料形態にとらわれることなく、「王権の戦略」と「地域の紐帯」を対照して漢代の地域圏の実態を評価する取り組みや、地理環境や生業適応など地理学的検討を反映した地形利用図を重ねることによって、漢代の地域圏を相対化する取り組みなどにおいて、一定程度の成果を得ることができた。
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