漢代は古代中国世界の一つの到達点であり、統一を背景とした共通性が強調されることが多い。本研究は、歴史情報と地理情報に基づいて漢代の地域圏を整理して、考古学・文献史学・自然地理学という視点から地域圏を評価することで、漢代社会の構造を明らかにしようとするものである。城郭・墓葬・自然境界を分析の手段として地域圏を析出し、地域圏相互の関係に基づいて、漢という世界の共通性とは何であるのかを問う。 漢代地域圏を評価する上では、マクロな視点とミクロな視点が重要になる。各種情報の蓄積は、本課題3年間を通じて遂行しえたが、漢代世界は広大な範囲に及び、蓄積された考古情報も膨大な数に及ぶため、本年度はマクロな視点で漢代の地域社会を検討することに目的を絞り、研究成果の集約に取り組んだ。 これまでに集成した地理情報と歴史情報をもとに、主に行政支配拠点である郡県に推定される城郭とその地理環境を対照した漢代歴史情報地図を作製した。この漢代歴史情報地図をもとに、よりマクロな視点で漢代の地域社会の実態を検討した。地形利用や領域という視点から地域社会の景観について検討を進め、多様な自然環境のもとにある個々の地域社会の実像を抽出し、その相互関係に注目して、漢という世界を構成する地域圏の様子を検討した。これは、歴史・考古・地理という複合的な視点で、漢代の地域圏を評価するものであり、漢代社会を検討する上で議論の基礎となるものといえよう。 この歴史情報地図をもとに、地域圏に対するミクロな視点での検討をおこなった。地域間相互の関係や地域圏内部の実態、あるいは漢帝国周辺地域との関係などを検討した。個別事例研究の範疇にあるこれらの認識や視点は、学会発表を通じてその一部を公開した。
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