唐代の資料と認識されている、大英博物館所蔵資料(スタインコレクション敦煌出土品)の調査を行った。絹製の平組紐は経帙に用いられていた可能性が指摘されている。正倉院宝物中の組紐に共通する特徴が認められることから、ループ操作による組紐技法の源流を考えさせる貴重な例である。 韓国では天馬塚出土馬具の金具に付着する組紐の報告事例を新たに確認した。日本の古墳時代同様、絹製の組紐は武具、馬具の製作に共通して用いられたことが理解される。韓国での蓮山洞8号墳、池山洞44号墳などの例とあわせて、古代東アジアにおける組紐製作技術の存在、伝播についての具体的な状況を議論することが可能になった。このほか慶州文化財研究所所蔵チョクセムC10号墓出土馬甲、小札甲および、釜山大学博物館所蔵福泉洞35・36号墳出土馬甲、札甲の調査を行った(いずれも5世紀に比定される)。 また組紐製作に使用された素材についてであるが、これまで古墳時代の挂甲や室町時代の鎧の縅糸復元には、絹糸の状態の観察から、繭から絹繊維を座繰器で引いて作る「座繰り糸」を用いてきた。一方で、技術的には古代より絹の紬糸の使用も想定されるが、具体的な報告例はほとんど見られない。今年度のイギリスでの国際会議で紬糸製作技術者との交流を経て、平安時代の鎧に実際に絹紬糸を用いる例が存在することを認識できるようになった。
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