●本研究の目的は、日本統治下台湾における教育や諸政策が、植民地の人々の心象地理形成にどのような影響を及ぼしたかを探究することである。最終年度である平成24年度においては、これまで収集してきた資料分析の整理、データベースの構築、分析、問題設定の確認・再構成を主な課題とし、具体的には①植民地政策と地理教育の関連についての整理とまとめ、②植民地教育を受けた人々への愛国心、郷土意識、台湾/日本への意識などについての聞き取り調査、③小説・絵画などからの分析がその調査課題となっていった。 ●具体的な調査実施状況:①については、植民地政策と地理教育に関する歴史資料を当時の新聞記事をさらに収集し、当時まだ珍しかった地図の発行をめぐる論議や植民地政府だけではなく被植民者による教育や地域振興・社会問題への対応について、新たな知見を得ることができた。②植民地教育を受けた人々への聞き取り調査については、女性3名、男性2名に対して詳細な聞き取りを平成24年8月~9月および平成25年2~3月に日本および台湾において実施した。③小説・絵画による心象地理への影響については、植民地において発行された雑誌に形成された小説・随筆などを収集、絵画は主にポスターや雑誌挿絵などを収集した。 ●意義および重要性:植民地政策や教育が植民地の人々の世界観・心象地理形成にどのような影響を与えたかを探究してきたが、当然、統治者による「上からの」政策によって被統治者の心象地理が統治者の意図を反映したものであったことは疑問の余地がない。しかし新聞や聞取り調査などから伺えるのは、被統治者と統治者のせめぎ合いと、そのなかから生まれる被統治者自身による「郷土観」の形成がなされたことである。この葛藤から生まれる世界観・郷土観が、「植民地」の心象地理といえるのではないか、という新たな見解を得ることができた。
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