研究概要 |
本研究はポスト生産主義の潮流下において,フードシステムにみられる品質の調整が農業地域の発展にいかなる影響を与えているのかを,生産者,消費者などの品質の認識と調整に伴う関係性構築から究明するものである。近年,ファーマーズマーケットに代表される地産地消のほか,オルタナティブな有機農産物等の質を認証する制度等によって,生産主義下で失われた生産者と消費者の関係を取り戻す動きがみられる。本研究はその成否を究明し,農業地域発展の諸条件を解明するものである。 平成22年度はまず東海地方におけるファーマーズマーケットを対象にその展開と実態に関わる配票調査を行った(東海3県のファーマーズマーケット436か所のうち,157か所から回答(回収率36%)を得られた)。その結果,(1)運営主体は生産者グループまたは農協を主とすること,(2)生産者の中心は高齢者であり,直売所の担い手の高齢化が進展していること,(3)そのため直売所を取りやめるものも現れ始めていること,(4)開設理由は地域の活性化,地元農業の振興,現金収入源などによるものであり,(5)一部で残留農薬検査の実施のほか,生産者名の明示と栽培履歴の提出による安心・安全の制度的仕組みが具現化していることが明らかになった。また,直売所側からみた消費者のニーズは価格,品質,安全,鮮度などが高く,生産者との交流や農作業体験,周年供給などのニーズは低いものと考えられていた。 以上から,本研究ではファーマーズマーケットが東海地方という大都市圏域と中山間地域,そして沿岸部までを含む多様な性格を示す地域でどのように展開し,その存立としての消費者のニーズを直売所側がいかに捉えて具現化しているのかを解明しえた。しかし,消費者側からの調査のほか,オルタナティブな農産物の生産・消費に関わっていかなる関係性が品質をめぐって構築されているのかをさらに明らかにする必要があるといえよう。
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