研究概要 |
本研究はポスト生産主義の潮流下において,フードシステムにみられる品質の調整が農業地域の発展にいかなる影響を与えているのかを,生産者,消費者などの品質の認識と調整に伴う関係性構築から究明するものである。近年,ファーマーズマーケットに代表される地産地消のほか,オルタナティブな有機農産物等の質を認証する制度等によって,生産主義下で失われた生産者と消費者の関係を取り戻す動きがみられる。本研究はその成否を究明し,農業地域発展の諸条件を解明するものである。 平成23年度は前年度の東海地方(愛知・岐阜・三重3県)におけるファーマーズマーケットへのアンケート調査を分析して,人文地理学会(於,立教大学)にて「東海地方における農産物直売所の地域的特色」と題して発表した。その後,岐阜・三重両県の直売所への追加アンケート調査を行った。以上から,東海地方の直売所は,(1)1990年代以降,とりわけ90年代後半から2000年代前半にかけて設立され,その立地では愛知県、を除いて山間部が過半数を占め,残りを主に平地農村部と都市部で分けあっていたこと。また,設立・運営は生産者または生産者グループを中心とし,愛知県で農協がその主体になる割合が高いこと,(2)その設立目的は「地元農業の振興」「地域の活性化」「地元農産物への消費者ニーズ」「女性・高齢者の活躍の場を作る」であり,年商から規模の分化がみられたこと,(3)各直売所の利用消費者は同一市町村または隣接市町村に居住する者が多く,リーピーターの割合が高い。直売所は消費者のニーズを鮮度,安心・安全,価格の順で捉えている。また,これを具現化するため,直売所の過半数弱が朝採り販売を行い,3分の2が生産者氏名を明記し,3分の1強が地場農産物の安定販売や地場農産物のみを販売していた。さらに,トレーサビリティに対応し,残留農薬の検査を行う直売所も3分の1弱あった。直売所のこのような取り組みは消費者からみた「鮮度」「安心・安全」「品質」を真に具現化し,ローカルフードシステムの構築の地域的条件となり得ているかどうかについて,消費者側からの調査を次年度に行う予定である。
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