研究課題/領域番号 |
22520789
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研究機関 | 愛知教育大学 |
研究代表者 |
伊藤 貴啓 愛知教育大学, 教育学部, 教授 (10223158)
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研究期間 (年度) |
2010-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | 農業地域の発展 / ポスト生産主義 / 品質の調整 / 総合的病害虫管理 / 茨城県神栖市 |
研究概要 |
本研究はポスト生産主義下において,フードシステムにみられる品質の調整が農業地域の発展にいかなる影響を与えているのかを,各主体の品質の認識と調整に伴う主体間の関係性構築から究明するものである。25年度は茨城県神栖市の野菜産地での生産者調査と土地利用調査を行い,愛知県渥美半島の輪ギク栽培地域を事例に生産主義段階の極相がどのように示されるのかを究明した。 前者の神栖市ではピーマン生産を行う二つの部会,すなわち特別栽培農産物としての認証を部会として得た,JAしおさい青果物生産部会とGAPを導入するJAしおさい波崎青販部会が農協合併後も併存する。この両部会は神栖市と波崎町,さらに旧農協の合併によって一つの市,一つの農協となったのであるが,ピーマン栽培における総合的病害虫管理(IPM)の導入に対して,全く異なる対応を示した。JAしおさい青果物生産部会は前部会長を中心に生産部会全体へとその普及をはかるべく,地域に適した技術開発を行い,試行錯誤のなかでIPMや養液土耕栽培を導入していった。土地利用的には中心地区の横瀬では長地条の地割にあわせて,施設園芸が道路沿いの圃場に立地し,ハウス自体も大型のものへ転換されていた。他方で,JAしおさい波崎青販部会は1988年に日本農業賞を獲得するなど,ピーマンの主産地として発展してきたが,IPMの導入に対しては地域リーダー層が否定的であり,普及が進んでいない。しかし,流通業者はJAしおさい青果物生産部会の栽培する品種を好み,IPMの導入に対しても理解を深めつつある。このような品質をめぐる生産の地域差に関わる地域的背景は生産空間からみた,農業地域発展の条件を示すものと考える。 渥美半島の輪ギク産地では生産者が労働力と経営方針からJAあいちみなみの3生産部会にわかれて,相補完し合いながら生産主義の極相としてのメガ産地を形成していることが明らかとなった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究はポスト生産主義の潮流下において、フードシステムにみられる品質の調整が農業地域の発展にいかなる影響を与えているのかを、各主体(生産者、消費者と両者を結ぶ企業等)の品質の認識と調整に伴う主体間の関係性構築から究明するものである。近年、ファーマーズマーケットに代表される地産地消のほか、オルタナティブな有機農産物等の質を認証する制度等によって生産主義下で失われた生産者と消費者の関係を取り戻す動きがみられる。GAP(農業生産工程管理手法)やMPS(花き産業総合認証)の導入も農産物の品質から生産者と消費者間の関係性を再構築する試みといえる。本研究はその成否を究明し、農業地域発展の諸条件を解明するものである。 平成25年度までに東海地方のファーマーズマーケットの主体者への調査のほか,高知県と茨城県の野菜産地におけるIPM(総合的病害虫管理)とGAP(適正農業規範)の普及を指標とした農業地域の持続的発展に関わる調査を行った。以上によりフードシステムの川上および川中の主体に関わる調査が終わったことになる。最終年度はこれらの成果発表とフードシステムにおける川下側との主体間の調整に関わる調査を茨城県神栖市の野菜産地で進める予定である。
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今後の研究の推進方策 |
研究計画の最終年度にあたる,平成26年度はフードシステムの川上・川中・川下の各主体間の関係性の究明を茨城県神栖市の野菜産地・作目を対象に進める予定である。この研究では既に東海地方のファーマーズマーケット(生産者側と消費者)の研究を進め,神栖市の対照区である高知県野菜産地の調査を終えている。これらポスト生産主義の影響を受けている地区と対照的な,渥美半島等の事例との比較を最終年度は行いながら,成果を発表するとともに,神栖市での調査を進めて高知県と異なる地域差の意味を考察してまとめたい。いずれにせよ,最終年度は5年間の総括として,日本の農業地域におけるポスト生産主義の浸透とそこにみられる主体間の関係性をIPMを指標に考察を進めるものである
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