研究実績の概要 |
本研究はポスト生産主義の潮流下において,フードシステムにみられる品質の調整が農業地域の発展にいかなる影響を与えているのかを究明するものである。 研究最終年度の本年度は特別栽培農産物をめぐる主体間の関係性を明らかにするため,まず茨城県神栖市のしおさい農協管内におけるピーマン産地において二つの部会(JAしおさい青果物生産部会と波崎青販部会)間での生産物の「品質」とそれを担保する諸技術への姿勢を調査した。当初,両部会では中核の生産技術(IPM:総合的病害虫管理)への姿勢に差異(前者で積極的導入,後者で普及の停滞)があった。しかし,後者のリーダー層の努力によって,その普及が始まり,認識の差異がなくなりつつあることが明らかとなった。これらは「品質」に関わるイノベーションの普及過程において,地域リーダー層の取り組みと手立てが重要であることを示すものであった。と同時に,外部的諸条件がその差異をなくす契機でもあった。 このような「品質」に関わるイノベーションにおいて,先行するのがオランダである。先の中核技術をはじめ,オランダから導入されたものは多く,同国の施設園芸における高い競争力の源泉でもある。高知県は日本でオランダ型の競争力の高い施設園芸を育成しようとしている。先の神栖市の事例との比較のため,高知県の土佐あき農業協同組合管内(芸西村)において,中核技術への姿勢の変化を調査した。そこでは中核技術が「品質」に関わるイノベーションというより,より個々の生産体系のなかでの重要性から認識されていた。同産地は日本においても「品質」に関わるイノベーションの最も普及したところであるが(伊藤,2014),オランダとの差異は大きい。それは日本型フードチェーンにおいて,生産者と消費者の物理的・心理的距離が多段階のノードによって形成されていることことに基因する。この点からの究明が残された課題である。
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