研究概要 |
第1に,三重県亀山市を対象に,大規模工場の立地前後に実施された工場労働者に対する大規模なアンケート調査の結果を比較検討することを通して,工業労働力の定着過程とその変化の分析を進めた.主に使用したデータは,2003年,05年,07年の3回にわたり亀山市内の工場労働者を対象に行われたアンケート調査結果である.まず大規模工場の立地直前(03年)の状況を検討した/労働者の調達は採用時期と職種によって異なること,一旦採用された労働者は職種や出身地を問わず比較的定着しているが,生活環境への不満などから必ずしも市内には居住していないことなどが判明した.次に,大規模工場の立地後の変化を検討した.7千人規模の雇用が創出されたが,転勤や,人材派遣業を通じて広域から調達された非正規雇用の増加が大半で,市内に定住意志を持つ者は少数であった.また社宅が未整備のため,行政の積極的な関与もあり主として単身者向けの民間賃貸住宅がスプロール的に多数建設された.しかし定住意志を持つ者は家族向け物件が多く生活環境の良好な近隣都市に居住する傾向にあった. 第2に,同じく亀山市を対象として,現在の居住と就業状況を詳細に把握するために,住民アンケート調査を実施した.市内の工業就業者の多い3地区を選定し,合計3,000世帯に対して調査票を配布し,約23%の世帯から調査票を回収した.この結果については現在鋭意分析を進めている. 第3に,亀山市を含む三重県地域の就業状況の変動を計量的に分析した.具体的には,産業構成や地域産業の生産性が相互に作用する多様な成長パターンの地域的差異が,どのような要因によって決定づけられるのかについて,シフトシェア回帰モデルを適用して実証分析を行った.その結果,成長産業の誘致政策が既存の産業集積地である三重県北部から中部では効果を上げたが,県南部では機能していないことなどが明らかとなった.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
亀山市におけるこれまでの調査結果の成果を学会発表するとともに,亀山市住民に対するアンケート調査を実施した点は計画通りである.さらに就業状況の変動を計量分析し,その成果を学会誌に掲載できた点は当初計画を上回っている.他方,住宅供給者に対する実態調査はやや後手に回ったが,総合的にはおおむね順調と考えている.
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今後の研究の推進方策 |
平成24年度が最終年度であるので,成果を取りまとめることに重点を置く.まず,23年度に実施した亀山市におけるアンケート調査結果の分析を進めるとともに,土地利用や景観の変化についての実態を把握する。これらをふまえて,亀山市における調査結果の分析と考察を行う.並行して,亀山市以外の類似の工業都市を対象として,企業立地の過程と,それに対する地方自治体の対応等についての情報収集と分析を進める.これによって,亀山市の調査から得られた知見の相対化・一般化を推進する.
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