本研究は、大手流通資本の再編が進んだ2000年以降における大型店の撤退行動に注目し、その実態を把握して撤退行動の類型化を図る。その上で、地方都市の商業環境に与えた影響をアンケート調査・ヒアリング調査を通じて実証的に分析すると同時に、大型店跡地の有効利用に関する施策のあり方を検討しようとしている。本年度は、地方都市における大型店の撤退について基礎資料を収集するとともに、時系列で撤退行動の把握を可能にするデータベースの作成を行った。この作業は2つのステップからなる。まず第一に、商業統計業態編の時系列分析を通じて、全国規模での大型商業施設の推移を都道府県・市町村単位で整理した。第二に、第一の作業をふまえて特に中心都市からの大型商業施設減少が顕著と考えられる県を6県選定し、「日本スーパー名鑑」(1990年、2000年、2010年)を用いて企業・施設単位での推移を把握した。その上で、中心市街地からの大型商業施設の撤退、あるいは中心市街地から郊外へのスクラップアンドビルドが顕著な5自治体(青森市、八戸市、仙台市、佐賀市、長崎市)を対象にヒアリング調査を実施した。以上の結果、(1)大型店の中心市街地からの撤退は大店法の規制緩和が進んだ1990年代前半から2000年代中頃までの10年間に顕著に見られたこと、(2)その背景には、店舗面積や用途地域に関する規制の変化、中心市街地と郊外との地代較差、地方都市における郊外居住とモータリゼーションの浸透、店舗運営の主体である個々の商業資本の経営状況など、様々な要因が幅輳していること、(3)大型店の撤退が中心市街地の集客力を減少させる一方、その跡地利用については事例ごとの差が大きいこと、などを確認した。
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