研究概要 |
どのような条件や環境が整えば,国際観光振興によるインナーシティの再生が進むのか,大阪釜ヶ崎の事例を相対化し一般化する糸口を探るため,平成22年度は東京山谷と横浜寿町にて比較検討を行う基礎データの収集を試みた。具体的には,東京山谷と横浜寿町にて,年代の異なる住宅地図を用いて近年の空間変容をフィールドワークで把握するとともに,山谷では城北旅館組合の帰山哲男氏などから,寿町ではYOKOHAMA Hostel Village関係者や簡宿経営者などから聞き取り調査も行った。 大阪釜ヶ崎へは頻繁に調査に入り,ゼミ生らとともに新今宮観光インフォメーションセンターを170日間運営するなかで,外国人個人旅行者の観光行動の実態や,外国人向け着地型まち歩きツアーに関するデータも収集した。 釜ヶ崎では産学連携の国際観光振興が,地域からの幅広い支援を受けて軌道に乗り,大阪国際ゲストハウス地域創出委員会と阪南大学松村研究室の協働活動は,国際観光振興からまちづくりへと進化し深化しつつある。山谷では,台東区役所など行政の支援も受けながら,数軒の簡宿が外国人客の積極的誘致で成果をあげ,内からの再投資も外からの新たな投資も起こり,まちの新陳代謝機能が高まりつつある。東京都台東区から墨田区にかけての一帯でも,外国人向けゲストハウスが多数出現しつつあり,国際集客の貴重な戦力に育ちつつある。寿町では,社会的起業の名のもと,YOKOHAMA Hostel Villageが外国人客誘致に取り組み成果をあげているが,インナーシティの再生という観点からはもう少し内実を見極める必要がある。釜ヶ崎・山谷・寿町の日本三大寄せ場がいずれも近年,外国人旅行者誘致を試みているが,その条件や環境は共通点と相違点を持ち,三者の比較検討はとても有意義である。
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