研究概要 |
2011年3月11日の東日本大震災の影響で,安宿が集積するあいりん地域には,外国人を含む多数の避難者が東日本から殺到した。研究代表者らが運営する新今宮観光インフォメーションセンター(以下,TIC)の窓口にも,そうした避難者たちが相談のため多数来訪した。そこでTICでは,いち早く避難者たちのニーズを聞き取り,あいりん地域の社会資源へ働きかけ,そのネットワークを利用して避難者に対応するシステムを構築した。 具体的には,大阪府簡易宿所生活衛生同業組合と連携して,避難者の宿泊割引制度を立ち上げ,TICがその紹介窓口のひとつとなった。また,通天閣観光と連携して,TICと地域のゲストハウスで,東日本からの避難者に対して,通天閣の入場チケットを無料で配布した。東日本大震災という未曽有の出来事を受け,本来の研究計画を大幅に変更して,差し迫った対応に全力を注いだ。 2011年度に企画していた大阪市内の宿泊施設の悉皆調査は,2011年7月までに,最新のデジタル住宅地図で宿泊施設の立地を確認し,それに「楽天トラベル」などの宿泊予約サイトの情報を加えて,データベース化を行った。8月から10月にかけて,主要なラブホテル街,あるカテゴリーを代表するような宿泊施設に赴き,目視調査や聞き取り調査を行った。現地調査を進めるなかで,宿泊施設と居住施設の中間的存在であるウィークリーマンションやシェアハウス,適法性に欠けるゲストハウス,夜をやりすごす事実上の宿泊施設などの存在も明らかになった。 研究成果の発表では,観光学の立場から震災復興を支え得るツールとして,あいりん地域で実践を重ねてきたコミュニティ・ツーリズムの手法が応用できると考えたので,当初の研究計画を大幅に変更して,あいりん地域での事例のとりまとめを優先し実施した。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
2011年11月の大阪ダブル選挙で,橋下徹大阪市長が誕生してから,「西成特区構想」が打ち出され,そのなかに,「海外からの旅行者(バックパッカー)向けの観光振興」が盛り込まれた。本研究の成果がこの西成特区構想に与えた影響は決して少なくない。西成特区構想が具体化して本格的に動き出せば,本研究の目的に沿った社会的実践が,官民一体となり,さらに推し進められると予想している。
|
今後の研究の推進方策 |
西成特区構想が実現に向けて動き出すなか,平成24年度は,より具体的に,国際観光振興でインナーシティを再生する計画の提案が求められると予想している。平成24年度の本研究では,あいりん地域に滞在する外国人旅行者の観光目的地選考・移動行動パターン・観光消費などに迫るアンケートの実施を計画している。西成特区構想を鑑みるならば,このアンケートに,外国人旅行者にとって,どのような条件が整えば地域での滞在が楽しくなるのか,逆に地域にとって,どのような条件を整えれば,さらなる外国人旅行者を呼び込めるのか,という観点も加味する必要を感じている。
|