本研究課題実施の初年度である平成22年度にはドイツと旧アフリカ領(ナミビアおよびタンザニア)との「植民地後和解」に関して、2年度目以降の研究設問の明確化を目的とする調査を実施した。 1 ナミビアとの関係について (1)「和解イニシアティブ」をめぐる動向:民間団体「ドイツ・ナミビア協会」とナミビア大使館を通して、関連する新聞雑誌記事ならびにナミビア議会の議事録を入手し、分析を進めた。ナミビア側のアクターの多様性およびモデルとしてのナチの過去の克服という分析の側面が浮かび上がってきた。 (2)記憶の場の動態:「ヘレロ・ナマ戦争」に関するベルリンの通称「アフリカ石」(ドイツ軍側の戦死者の追悼・顕彰碑)を訪ね、またこの碑に関する資料を収集して、その変動について調べた。これには2年前にアフリカ側の犠牲者を追悼する石版が追加されており、その背景に、植民地責任をめぐる国際政治的な変化と共に、ベルリンのローカルな政治と市民社会アクターの働きかけがあることがわかった。 2 タンザニアとの関係について (1)市民社会組織の調査:タンザニアを対象に活動を行なっているドイツ側の組織「国際和解協会・ドイツ支部」ならびに「タンザニア・ネットワーク」を訪ねて、資料収集を実施した。特に後者は植民地戦争の歴史を踏まえたドイツ・タンザニア共同の行事を開催しており、有益な情報・資料を入手できた。 (2)ハンス・パーシェの伝記調査:ヴィルヘルム期の海軍軍人でタンザニアでの植民地戦争に参加し、後に平和主義者となった人物ハンス・パーシェ(Hans Paasche)が、ドイツと旧アフリカ領との関係史において興味深い存在として浮上してきたので、その伝記と後世への影響について調査を進めた。
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