本研究の目的は、難民問題の解決手段として「地域に恒久的な安定をもたらす開発のありかた」の提示を試みることである。とくに施設建設などの「場所の価値」を高める開発ではなく、地域のなかに、複数の民族にまたがる相互依存の関係を作りだす経済活動が、民族紛争を減少させる可能性を高めると考え、そのような事例研究に取り組んだ。昨年度は、エチオピア連邦民主国オロミア州スルパ町周辺地域にすむ牧畜民ガブラ・ミゴを対象に、約4週間の現地調査を実施した。ガブラ・ミゴはスルパ町周辺で牧畜を営んでいるが、これとは別に、同じ地域に住む農牧民グジとともに、互いが得意とする分野を上手く組み合わせることによってラクダ交易を行っていた。ガブラ・ミゴとグジは2006年に大規模な紛争を起こしているが、彼らは憎悪と恐怖を乗り越えてビジネス関係を構築していたのである。ラクダ交易では、ラクダの扱いを得意とするガブラ・ミゴが、商人の指示でラクダを市場で買い求めたり、購入したラクダを肥育させたり、トラックに積み込んだりする作業に従事していた。一方、商業活動も活発におこなうグジは、トラックの手配などをおこなっていた。これは経済学のいう「比較優位」に基づいた分業といえ、民族を越えた相互依存の関係がつくりだされていた。
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