南エチオピアでは1964年、74年、91年、2005年に大規模な民族紛争が起き、多くの難民・避難民を産み出した。こうした紛争は、牧畜生産を大きく阻害してきた。本研究は、難民問題の解決として「地域に恒久的な安定をもたらす開発のありかた」の提示を試みることを目的に実施された。UNHCRは「難民と現地住民との双方に同時に利益をあたえる開発」を提唱しているが、この研究では、井戸を掘るといった「場所の価値」を高める開発でなく、地域のなかに、複数の民族にまたがる相互依存の関係を作りだす経済活動に着目する。なぜならば、「場所の開発」は、その場所を稀少な資源へと変換してしまい、あらたな紛争の原因にもなりかねないのである。 平成25年度は、エチオピア連邦民主国、オロミア州スルパ町周辺地域にすむ牧畜民ガブラ・ミゴを対象とした30日間の現地調査を実施した。ガブラ・ミゴは家族を放牧セクターと難民セクターに二分している。放牧セクターはスルパ町周辺地域で家畜の管理をおこなっている。一方、難民セクターは約200km離れたモヤレ町周辺にある。本年度は、牧畜セクターを中心に(1)難民の生存を可能にする諸生業活動の詳細として、①諸生業活動の網羅的記述、②新規の経済活動の仕組みの解明、③諸生業活動における収入のサンプル調査を実施した。とくに、現地協力者による記録をもとに、ラクダの交易活動の実態を詳細に再現していった。さらに交易活動に参加した現地の人びとの記録をもとにインタビュー調査をおこない、ガブラ・ミゴとグジの両民族の共同関係を詳細に復元していった。その結果、ラクダ交易のメカニズムを詳細に解明することができた。 成果の一部は、5月に東京大学で開催されたアフリカ学会で発表したほか、11月にシカゴ市で開催されたアメリカ人類学会で発表し、東アフリカの牧畜社会における有効な開発のあり方として提示した。
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