研究課題/領域番号 |
22520817
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研究機関 | 東京外国語大学 |
研究代表者 |
上村 明 東京外国語大学, 外国語学部, 研究員 (90376830)
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研究期間 (年度) |
2010-04-01 – 2014-03-31
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キーワード | 社会ネットワーク / 牧畜 / コミュニティ / コモンズ / 開発援助 |
研究概要 |
モンゴル国の牧畜における資源利用、とくに牧地や宿営地の利用とそれにおける社会的ネットワークの役割について明らかにするため、つぎの現地調査をおこなった。 2012年8月3日~9月1日には、モンゴル国西部のホブド県ドート郡、バヤンウルギー県ボルガン郡で、牧畜作業の参与観察と、牧畜経営・家計についての聞き取り調査をおこなった。とりわけ、牧畜における移動について、GPSで宿営地の位置を計測したほか、移動の様式の近年における変化や今後の動向について聞き取り調査した。また、牧畜部門における開発プロジェクトの地元コーディネータや郡長と面会して、基本的な統計データを集めるとともに、牧畜開発プロジェクト実施における問題点について聞き取り調査をおこなった。2013年3月11日~12日には、モンゴル国ウランバートル市において、モンゴル科学アカデミー地理学研究所、モンゴル国立大学の研究者たちと研究情報を交換した。 以上の現地調査により、調査地における牧畜世帯の牧畜経営と移動について最新のデータを収集することができた。これと前年度までに収集されたデータを重ねることにより、牧畜経営と移動のより長期間の変化をたどることが可能となった。また、近年のガソリン代などの値上がりに対して、燃費のよい自動車を調達し、運搬する住居の大きさや調度を最小限にすることによって移動のコストを減らす努力をおこなっていること、さらに、バヤンウルギー県の調査地では、冬の積雪量が多いため飼育する家畜数が制限され、冬の雪害における被害を減らすためとなりのホブド県に家畜を移動させる際に行政単位を越えた社会的ネットワークが重要な役割を果たしていることが分かった。 これらの調査結果の中でとくに強調したい成果は、モンゴルの牧畜における、地縁的なコミュニティの領域を越えたネットワークの重要性を明らかにした点である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
まず、牧畜民グループによる牧畜開発の実施状況についての調査が十分できなかったことがあげられる。予定していたトゥブ県ウンドゥルシレート郡の調査は、時間的制約のためできなかった。また、ホブド県の調査地では、牧畜開発プロジェクトの資金が減額され行政の支援も受けにくいことから、牧畜民グループの活動が低調であった。そのため、プロジェクト・コーディネータ自身のせまい範囲の親族関係に限定された活動をおこなう牧畜民グループしか調査できなかった。牧畜民グループの活動が比較的活発なウンドゥルシレート郡での調査を実施できていたなら、この点を補完することができたと思われる。 つぎに、これまで実施したアンケート結果の集計がまだ完全には終わっていないので統計を用いた分析が完了せず、社会ネットワークの解析に本格的に手をつけることができないでいるからである。アンケートの結果は、モンゴル国で研究協力者を介してエクセルに入力してもらい確認作業もお願いしたが、かなりの数の入力ミスがあり、数万件のデータを再び確認する必要がある。調査の目的とデータをどのように加工するべきかを理解し緻密な作業をおこなう技能もそなえた人材を確保することは、非常にむずかしい。モンゴルだけでなく日本もふくめて人材を探す必要がある。 3つ目は、モンゴルの牧畜のネットワーク分析をおこなう技法がまだ確立していないことである。牧畜資源の利用におけるネットワークの記述には、資源を共同で使用する牧畜民世帯間のネットワークだけでなく、それをGISによって資源の位置と結びつける作業が必要である。その技術的手順が開発できていない。 また、この研究に理論上関連する領域はひろく、生態学、環境社会学、コモンズ論、社会関係資本論、社会ネットワーク論、新制度派経済学などの知識を総合しないと、高い水準の研究を生み出すことはできない。これにも時間とコストが必要である。
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今後の研究の推進方策 |
まず、現在問題となっている技術的な問題、データの整理や解析、GISと統合されたネットワーク分析の手法を模索するとともに、現地調査とくにトゥブ県ウンドゥルシレート郡の調査に力を入れたい。また、2つの調査サイトで開発プロジェクトの実施状況になぜ大きな差が出ているのか検討したい。 さらに、「牧畜民グループ」による牧地管理が成功しない理由を説明するのに、社会関係資本論、社会ネットワーク論における議論を反映させることで研究の水準を高め、あるいは研究領域のニッチを開拓することを目指したい。 具体的には以下のような計画を立てている。、 (1)6月に国際コモンズ学会と日本文化人類学会において研究発表をおこなう。(2)7月末から9月にかけてモンゴル国に滞在し、まず研究を支援する人材を見つけ、データ解析のための基盤をつくる作業をおこなう。(3)モンゴルでの現地調査は、トゥブ県ウンドゥルシレート郡、ホブド県ドート郡を予定している。前者は現地のプロジェクト・マネージャーのインタヴューを中心に調査し、後者では社会ネットワークのリスト作りとともに、長年のホストファミリーとの対話によって牧畜経営の戦略における可能な選択肢とそれをどう選択するかについて理解を深める。(4)9月、調査による新しい知見の発表にとどまらない、理論面の進歩にも寄与する研究論文を、単著とモンゴルの共同研究者との共著で、英文学会誌に投稿する予定である。(5)2014年3月までにこれらの成果をまとめて単行本を執筆する。
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