研究概要 |
本年度においては、当初の計画通りに、「イスラーム弾圧の中での回族虐殺に関する調査研究」を実施した。具体的には、夏休み期間中に中国南部の雲南省の沙甸村に赴き、1975年夏にこの村で発生した大量虐殺事件について調べた。雲南省昆明市と沙甸村では回族の人たちに当時の様子について聞き書き調査をおこない、証言と第一次資料を集めた。その結果、大量虐殺事件が発動された背景には、中国政府によるムスリム社会への不信と、階級闘争論に基づく特定の宗教団体への弾圧などの政治的原因があった事実を突き止めた。この時の調査成果は「沙甸村の殉教者記念碑」(『中国21』Vol.37,2012年)として公開されている。 雲南省沙甸村ムスリムの虐殺事件は、社会主義中国が少数民族に対しておこなった数々のジェノサイドのなかの一例に過ぎない。それは1958-59年に発生したチベット人大量虐殺事件と、1966-1976年におこったモンゴル人ジェノサイドの延長線上にある事例でもある。一連のジェノサイドの実態分析を通して明らかになったことは、社会主義中国は常に強硬な態度で諸民族の正当な自治要求に対処してきた、という事実である。限られた文化的自治を着実に実施するよう求めても、武力でもって対応する政府側の姿勢がそれを物語っている。それは、さまざまな民族の存在を消して、均質的な「中国人民」を創出するための手段でもあった。 また、中国政府側の対応と虐殺された側の意見陳述をまとめた資料集『モンゴル人ジェノサイドに関する基礎資料5-被害者報告書(1)』(風響社,2013年3月)を刊行した。同資料集には中国政府が公布した公文書と虐殺被害者側の報告書、両方が含まれている。
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