研究課題/領域番号 |
22520820
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研究機関 | 三重大学 |
研究代表者 |
石井 眞夫 三重大学, 人文学部, 教授 (20136576)
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キーワード | Ethncity / Malay / Dayak / Nation state / Colonialism / Minority / Ethno-tourism |
研究概要 |
昨年度のサラワク、西カリマンタンに続き、本年度研究はサラワク、サバを中心に実施した。同時に文献調査にも力を入れ、特にシンガポール国立大学、シンガポール国立図書館、シンガポール国立アーカイブスでは多くの成果を上げることが出来た。現地調査ではこれまでの現地調査と文献資料では得られなかった実情が明らかになった。 昨年度調査を行った西カリマンタンではマレーシア領サラワクでは山地住民はダヤク概念で包括的にとらえられるにしても、各集団固有の民族名が優先し、そうした少数民族集団への帰属意識が優先していた。これに対して、カリマンタンでは個々の山地民集団の文化的・言語的相違を越えてダヤクとしてのまとまりが、特にスハルト時代終了とともに強化されつつある。今年度現地調査を実施したマレーシア・サバ州ではダヤク概念はほとんど使用されず、個別の山地民集団名のみが使われるばかりでなく、ムスリム平地民の間でもマレー人としての意識が希薄であって、マレー概念自体がほとんど使われることがなかった。マレーシア主要民族を示す「マレー」概念への認識が希薄なことは、すでに指摘されているように、マレーという用語自体がイギリス植民地政策の産物であったことを傍証していると思われる。こうしたマレー意識やダヤク意識は、当初の想定以上にダイナミックに植民地政治、国家政策、現代の地方政治の動きなどと関連しているようである。 また、本年度の調査では、民族協会活動と並び、山地民への布教を熱心に進めたキリスト教のミッション活動にも着目した。新たな知見としてミッション活動はボルネオ住民に今日のような民族的分裂を意識的・無意識的に形成したと考えられるいくつかの事実が浮かび上がった。こうしたことについては、次年度の課題としてより一層の調査研究を進める必要があると考えている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
研究当初の平地民マレーと山地民ダヤクという対概念の地域差について当初想定以上に多様であることが明らかになった。また、マレーという概念がマレーシア国家全体で必ずしも共有されているわけではないこと、さらにマレー概念形成にはキリスト教ミッション活動が意外に大きな役割を果たしていたという、これまでになかった視点が得られたことなどによる。
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今後の研究の推進方策 |
これまで2年間の調査研究を通じ、現代国家の中での山地民認識の相違がかなり明らかになった。具体的にはカリマンタン諸州ではダヤク全体が、文化的言語的相違にもかかわらず、ひとつの大きな民族集団化するのに対して、マレーシア領のサバ州、サラワク州ではダヤクとしてのまとまりが無く少数民族化が進んでいることである。また、ザバ州ではマレーという民族概念への認識が希薄で、「マレー民族」が植民地時代の産物であることを傍証しているようである。今後の課題として、ダヤク概念ばかりでなくその対概念の正確な把握に努めて行くこととしたい。
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