本研究は、東南アジア大陸部のタイ系民族シャンが有する口承と書承の文化的実践の関係を手がかりに、シャン仏教における仏教書を使った諸実践と口承の仏教実践との関係を明らかにすることを目的としている。今年度は、シャン文字で書かれた仏教書の運用形態を明らかにするために、昨年度に引き続き、タイ国北部にて仏教文書を取り扱う在家の知識人らについての聞き取りを行った。調査項目は以下の2点である。 1.仏教文書の特徴について。 シャンの仏教儀礼で朗誦される仏教文書は、独特の韻文体で著作されており、その韻文の構造について聞き取りをした。これらの聞き取りから、押韻の種類は同一でも、作者によって韻文の形式が異なっていることが明らかとなった。これまでほとんど研究がなされてこなかったシャン語韻文の基本的な様式を把握することができたことは大きな成果である。 2.タイ国北部で活動する仏教文書を取り扱う在家の知識人についての個人史調査 近代教育の浸透によって、民族固有の伝統的文字知識継承が難しくなっていている状況下で、仏教文書を取り扱う在家の知識人の個人史の聞き取りを行い、教育経験、出家経験、移動経歴、活動年数、活動内容などのデータを収集した。これによって、在家知識人像の全体的な把握を行うことができた。現在文書の朗誦活動している在家知識人のなかで、特に国境を越えてミャンマー連邦シャン州から移住してきた者が多いことを明らかにすることができた。上記の点に関しては、『Southeast Asian Studies』(京都大学東南アジア研究所)第1巻第3号(2012年12月)に研究成果をまとめたものを発表した。
|