本研究計画の初年度である今年度は、本研究に先行する調査によってすでに入手済みのデータ(各種統計資料、文献、インタビュー結果)を整理しなおし、新たに収集を必要とする文献を特定したのち、書店を通じて入手可能なものの一部を購入した。また、オランダ統計局が公開している統計資料や研究機関のリサーチペーパーなど、インターネット上で公開されているものについては順次ダウンロードし、読み込みを進めた。 夏季にはオランダでの現地調査を実施し、王立図書館、ライデン大学付属図書館などにおいて、国外では入手の難しい関連資料を閲覧するとともに、研究課題にかかわる新聞・雑誌記事の収集を行った。これらの作業を通じて得た情報の分析により、とりわけ女性にとって有償労働とと家事・育児を含む無償労働の両立を可能にする働き方が依然として重要な関心事であること、これを実現する方策として正規パートタイム労働を選択する女性が未婚者も含めて増加し続けていること、同時に公的保育の利用者も増加の傾向にあることなどが確認された。本研究開始前にインタビュー調査を行った対象者へのフォローアップ・インタビューを実施したが、その内容からも上記のような傾向を読み取ることができた。 また、国立アイルランド大学メヌース校において開催された第11回ヨーロッパ社会人類学会(European Association of Social Anthropologists)に出席し、オランダのみならずヨーロッパ地域における労働問題やワークライフバランスをめぐる諸問題に関する情報収集を行った。 本年度実施した調査研究を通じて、オランダ社会において仕事と並び立つ営為としての「ケア」(zorg)に関する概念や実践への考察の重要性を再確認した。成果発表としては、ケア概念の分析やケアが実践される空間としての家庭に注目した研究報告を行った(「<仕事とケアの両立という生き方-オランダ人のワークライフバランス」)ほか、オランダにおける家事の歴史的変遷を日本との比較を視野に入れつつ考察した論文を執筆した(「家事の文化-オランダにおける<主婦の仕事><母の仕事>とその変容-」、6月刊行予定)。
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