本研究は政治変革期にある西アフリカでの人類学的調査をもとに、新たな情報メディア環境のなかで、人々のリテラシー(運用能力)がどのように機能し、世論形成や投票行動などの社会・政治的文脈に結びつくのかを実証的に明らかにすることを目的としている。具体的には、メディア機関の機能、人々の生活史(ライフヒストリー)、地域コミュニティの関与という3つの視角を設定し、情報環境の変化がどのように人々の対話を生み出し、政治的貢献を果たすのかを明らかにする。 初年度はベナン都市部のメディア機関の概要を把握することを目標とし、とくに人々の日常生活に密着したラジオ調査に重点をおいた。南部都市部を中心に5局、15名ほどのジャーナリストとメディア関係者にインタヴューができた。ラジオの担い手の経歴や生活史に焦点をあわせることで、ベナンのメディア史を社会の内側から理解しようとした。また、オーディエンス調査として無作為抽出による視聴者へのアンケートをとり、おのおの性別、年齢、民族集団、宗教、学歴、職種に留意した。とくに先行研究でデータが不足している女性層に配慮して調査を実施した。だが、ジャーナリストに比べてオーディエンスは特徴的な事例データを収集することが困難であり、今回の調査では全体像の把握には至らないという問題点も浮かび上がった。今後、収集したデータを整理し、分析するなかで事例研究の手法を改善していく所存である。こうした研究・調査の一部を日本文化人類学会において口頭発表し、また、論文を機関紙に投稿し、複数の査読とリライトが進んでいる状況である。こうした情報発信により、わが国のメディアと民主主義の人類学を切り拓く意義は大きいと考える。
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