本研究は政治変革期にある西アフリカでの人類学的調査をもとに、新たな情報メディア環境のなかで、人々のリテラシー(運用能力)がどのように機能し、世論形成や投票行動などの社会・政治的文脈に結びつくのかを実証的に明らかにする。 24年度はベナンと隣接するトーゴ都市部のメディア機関へと対象を広げ、調査を行なった。ロメ市内を中心に5局、10名ほどのジャーナリストとメディア関係者にインタヴュー、ラジオ局主催のイベントへの参与観察を行った。ラジオの担い手の経歴や生活史に焦点をあわせることで、社会の内側から理解しようとした。さらに、参加型番組をささえる常連のリスナーへのインタヴューを行い、トーゴでのメディア事情について多面的な理解が得られた。本年度はオーディエンス調査に重点をおき、大きな成果を得ることができた。視聴者参加型番組に頻繁に参加をする視聴者や視聴者集団とコンタクトをとり、その構成とライフヒストリーを把握することで、その特性を知ることができた。ベナンとトーゴ両国の比較検討をすることでアフリカメディアの研究における、とくに視聴者-市民の分析に大きな進展をもたらすと期待できる。 本年度はとくに本研究の中間報告として成果公開に実りがあった。機関紙「文化人類学」、「AFRICA」への投稿、刊行のほか、論文集の一論稿として2011年大統領選挙とジャーナリズムの相関を論じた。「高千穂論叢」では後者の事例を別な視角から再検討し、英文で公開した。これらの内容の要旨を日本文化人類学会、日本アフリカ学会で口頭報告というかたちで公開した。また、年末にはアジアアフリカ言語文化研究所におけるシンポジウムにて口頭報告を行った。こうした情報発信により、途上国のメディアとデモクラシーの人類学という領域に貢献した意義は大きい。
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