米軍統治下の琉球列島における社会科学調査と民間情報教育行政がどのような関係にあったか。このような問題を念頭に過去2箇年にわたり収集した資料の最終的な整理を進めるた。と同時に、この資料群から浮かび上がってきた歴史的事実について理解の裾野を拡げるために、違う立場からの記録類や、同時並行的におこなわれていた他の分野の学術調査と、これと結びついた対住民行政政策について関連情報をの収集に努めた。 具体的には、琉球大学附属図書館が所蔵するジョージ・カー文書すべての画像処理および概要目録の作成を完了し、最終形態となる詳細目録についても若干の書誌確認を残すのみとなっている。一方で、米国から派遣される専門家による琉球の地誌調査と、これにもとづいた米軍の民政計画を琉球住民側からみる格好の史資料として、カーと親交のあった川平朝申氏の個人文書の存在が明らかとなった。所蔵館である那覇市歴史博物館の協力を得てその調査を進めたところ、これを媒介にして、カーと同様に琉球列島学術調査プログラム(SIRI)に加わった軍医ギルバート・ペスケラによる肺結核調査および公衆衛生行政へと研究の視野を延長することができた。さらに、このような琉球住民側への着目は、残存関係者への面談調査による情報収集という新たなアプローチの可能性を開いた。本年度中には、往時のカーやペスケラと交友を持ったり、両者それぞれの現地協力者の役割を果たりした者、あるいはこのような人々の遺族から有力な情報を収集することができた。また、両人と同じくSIRIプログラムで琉球に派遣された文化人類学者ダグラス・ハリングの調査中に彼の案内役を務め、その後も交信を続けた元調査助手からインタビューを取るために奄美諸島に赴いた。 本研究によって得た資料を活用した報告として平成24年度中には5本の口頭発表をおこない、年度末までに5本の論考が出版された。
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