2010年度のフィールド調査は、一つは、8月北海道浦河赤十字病院精神科の往診活動での参与観察と、そこで知り合った在宅ケアを行っている人(5人)に、インタビューを行った。また、二つ目は、9月長野県松本市で、曹洞宗東昌寺の副住職の飯島恵道氏の供養先で在宅ケアの経験者の方へのインタビュー(2人)と松本市のNPO法人ライフデザインセンターの久島和子氏にインタビューを行った。以上の調査から、以下の点について明らかになった。 (1)浦河町精神医療の取り組みでは、都市では明らかに入院という形態をとる高齢者を、往診により高齢者宅で家族と医療者(医師と看護師)とが定期的に直接顔を合わせることで、高齢者本人や家族の老いや死に対する不安を軽減させ信頼関係を作りだしていた。また、医療者の訪問自体が生活の励みとなっていた。同時に、在宅ケアを実践する高齢者家族の中で、ケア対象となる高齢者と向き合うためのユニークな技法を編み出したり、あえて在宅ケアを選沢する「生」の意味を見出したりしている人もいた。 (2)寺院システムが一部機能している松本市では、月命日という供養実践を通して、とりわけ尼僧による供養実践は、在宅で家族をケアする女性にとって、同性間で悩みや苦労を語り合うというカウンセリング機能を果たしていた。しかも、寺院と信徒(供養依頼者)との関係において、3世代、4世代前からの付き合いがあり、寺院の歴史と信徒家族の歴史とが重なり合うことで信頼関係が生まれていた。いいかえれば、ケアを生み出す場所の歴史性が、ケアを一世代のものに限定せずに、時間軸としてつながりを形成しているのである。しかし、他方で、宗教の世俗化や家族構成の変化により供養の要望が次第に減少し、かかわりの歴史が断絶していく現実も否定できない。また、後継者問題などにより尼僧寺自体の存続も危ぶまれている。
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