研究課題/領域番号 |
22520833
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研究機関 | 相模女子大学 |
研究代表者 |
浮ヶ谷 幸代 相模女子大学, 人間社会学部, 教授 (40550835)
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研究期間 (年度) |
2010-04-01 – 2014-03-31
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キーワード | 高齢社会 / 老い / 看取り / 苦悩(サファリング) / ケア / 在宅死 / 葬儀 / 終活(ライフデザイン) |
研究概要 |
2012年度は、研究目的として掲げている「現代日本の高齢社会における老いと看取りをめぐる苦悩とケアの構築」について明らかにするために、長野県松本市のNPO法人ライフデザインセンター(LDC)と曹洞宗東昌寺住職飯島恵道氏の活動、そして北海道浦河町の浦河赤十字病院精神保健福祉の取り組みと社会福祉法人浦河べてるの家の活動を中心に現地調査を行った。 LDCの活動に関しては、会員対象の勉強会(6/21、7/12、8/7、2/23、3/7-8)に参加し、老いの過ごし方(マネーライフプラン、第二の人生)、死の迎え方(終末期医療、葬儀)について受講し、高齢者が何を望み、何を不安に思っているについて学んだ。他方で、LDCのスタッフに、会員にケアを提供することから見えてきた老いのイメージ、ケアの意味について聞き取り調査をした。また、飯島恵道氏の活動に関しては、2月に信州大学地域社会イニシアティブ・フォーラム主催のシンポジウム「悲しみに優しくあたたかいオアシス」に参加した。後半、グリーフワークをテーマにしたワールド・カフェに参加し、松本市民と意見交換を行った。さらに、3月東昌寺で行われた模擬葬儀に参加し、新たな葬儀の在り方について知ることができた。 北海道浦河町では、浦河赤十字病院精神科病棟の存続の有無が問われるという病院組織改編の時期を迎えるにあたり、病院の医療福祉の専門家たちは精神科病棟の長期入院患者の退院促進に取り組んでいる。彼らは浦河べてるの家との協働のもと、「精神の病気をもちながら地域で暮らす」ための支援のあり方に挑戦している。この取り組みを通して、高齢者が病気を持ちながら自宅で死を迎えるために、専門家や家族、地域住民が在宅で死を迎える本人をいかに支えることができるか、という地域包括的ケアのシステムを考えるうえでの示唆を得ることができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本研究は、(1)個人のフィールドワークを基にした老いと看取り、苦悩とケアについての研究と、(2)(1)と連動する国立民族学博物館共同研究「サファリングとケアの人類学的研究」(代表者:浮ヶ谷幸代)という二つの研究を軸としている。 (1)の目的を達成するために、当初フィールド先は長野県松本市と北海道浦河町に設定していたが、現在(A)老いと看取りと(B)苦悩とケアというテーマに沿ってフィールドを拡げてきた。(A)の老いと看取りというテーマこ関しては、宮城県仙台市の爽秋会医療法人の岡部医院の在宅緩和ケアホスピスや北海道札幌市の月寒ファミリークリニックの在宅診療の取り組みなど、比較検討するためにフィールド調査を行うことができた。また、最終年度は新潟県長岡市にある仏教系ホスピスのビハーラ病院を調査する予定である。 (B)の苦悩とケアというテーマに関しては、別の研究助成の採択を受けて、東日本大震災の被災者の「心のケア」というテーマで、2012年度から仙台・石巻市を中心にフィールドに入り始めた。そこでは、被災地/被災者が抱える苦悩について学ぶとともに、そうした人々に寄り添い、苦悩に耳を傾ける宗教者による「カフェデモンク(移動傾聴喫茶)」の活動について知ることができた。ここで得られた知見から、苦悩(サファリング)とケアの概念構築のために示唆を得ることができたからである。 また、(2)に関しては、2013年3月末で民博の共同研究は終了したが、2012年度日本文化人類学会研究大会で同テーマの分科会を企画し発表できたこと、日本文化人類学会誌『文化人類学』で同テーマの特集を組むことができたこと、そして最終の研究成果として二つの論文集の刊行を予定していること、などからである。
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今後の研究の推進方策 |
本研究のテーマである「老いと看取りをめぐる苦悩とケア」について調査研究を進めていくプロセスで、「死の概念と看取り文化の再構築」という課題が新たに浮上してきている。近い将来、日本は高齢社会から多死社会を迎えることになるが、死を、どこで、だれと、どのように迎えるか、という課題は残されたままである。 現在、日本では高齢者の90%近くが病院や高齢者ホームなどの施設で死を迎えている。その結果、日本社会は過去50年の間で自宅での看取りの力、そして地域での看取り文化をほとんど失ってしまったといえる。他方、厚生労働省は急増する高齢者医療費の削減のために、病院医療から在宅医療へとシフトする政策を掲げている。 そこで、高齢者は死を迎えるにあたって死をどのようにとらえているか、在宅で死を迎えることを望む人をどのように支えるか、という「看取りと死のデザイン」構想について検討することが重要課題となっている。医療専門家や行政主導ではなく、住民主導による看取り文化を再構築するための方策を明らかにするためには、人類学的研究が貢献できると考えている。本年度が研究の最終年度となるにあたって、その研究成果が新たなテーマの準備構想となることも視野に入れて、調査研究に取り組む予定である。
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