本年度は、高齢社会において医療福祉制度の在り方が当事者である高齢者の支援にどのような影響を与えているのかを視野に入れながら、高齢者本人や家族、医療福祉の専門家、宗教者、地域住民が老いの意味や死の迎え方をどのようにとらえているかを通して、老いと看取りをめぐるケアの在り方を明らかにすることである。具体的には、A.長野県松本市とB.北海道浦河町でのフィールドワークを通して明らかにする。 A.の調査は2回(5月20日ー21日、10月17日ー19日)行った。NPO法人松本市ライフデザインセンター(LDC)主催の勉強会「『最後まで自宅で』の願いに寄り添って」(松本市あかはね医院唐木千穂医師)、そして松本市の高齢者ホーム(2ヶ所)の見学に参加した。また、篠ノ井町で開催された飯島恵道氏(東昌寺住職)の講演会(模擬葬儀を含む)「ちゃんと悲しむ、ちゃんと見送る」に参加した。B.の調査は、北海道浦河赤十字病院の精神科病棟閉鎖にかかわる関係スタッフへのインタビューと、精神障がいをもちながら地域で暮らすための仲間のサポートの在り方について、NPO法人浦河セルポのピアサポーターへのインタビューを行った。地域で暮らす精神障がい者のためのケアのあり方は、地域で老いを迎え、施設や在宅で死を迎える高齢者を看取る際のケアの在り方を考える際の参照枠となる。 調査研究の結果、老いと死に向き合う高齢者が地域で暮らすために、どのようなケアが必要か、専門家や当事者同士、地域住民によるケアのあり方について二つの共通点が見えてきた。一つは、本人や家族を交えた多職種連携である。それは、当事者の全体的生を支える暮らしの場を基盤として、職種や立場を超えて分断とならない役割分担をすることである。二つ目は、老いや死をめぐる苦悩に対して、きちんと向き合うことであり、向き合うことによって創造的ケアが生まれるという点である。
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