本年度は、イレズミの道具や染料や施術プロセスを調査・分析した。タヒチ島パペーテ及び近郊のイレズミ施行場においてどのような道具や染料が選択されているか、それがイレズミのスタイルや模様にどのように影響を与えているかを調べた。また、フランス国立図書館などで収集した19世紀、20世紀のポリネシア人の肖像写真やタヒチ島パペーテにおける現代のポリネシア人のファッションを検証した。 イレズミは身体に非可逆的な模様を彫り込む行為であり、被施術者に生得および成長・加齢と共に獲得する身体性に加えて人工的に新たな身体的特徴を持たせる。タヒチにおけるイレズミの施術は、道具に関しては伝統的な道具、改造された携帯用電気髭剃り、欧米のタトゥーマシーンで施行され、染料は伝統的な天然のもの、チャイナ・インク、欧米のタトゥー・インクが使われている。他方で、衣服は木綿や化学繊維などの素材、スタイルやプリントや色などの物質性が異なるものからなり、着用する人の年齢、ジェンダー、エスニシティ、職業などを示し、また冠婚葬祭の衣装、仕事着、日常着等、時、場所、場面ごとに分けられて着用されている。 イレズミは身体を染料というモノとハイブリッド化させる行為であり、その皮膚に込められた性質は一過性のものではない身体的特徴として現れるようになる。衣服は着用する者の皮膚を覆い、その上から皮膚と同じような役割を担うが、イレズミとは異なり着脱が出来る。イレズミは染料というモノを皮膚内に彫り込んで皮膚を物質化させ、衣服は布というモノを皮膚の上に覆うことで、皮膚と同じように身体の保護やアイデンティティの表示を行い、布を身体化させる。このようなイレズミと衣服の類似点・相違点を18世紀から現代にかけてのタヒチ社会の変化に照らし合わせながら分析を進め、論文等で発表する予定である。
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