本研究の目的は、2004年のEU拡大以後、急激に増加した東欧系移民労働者が、農村部の地域社会に与えてきた影響を具体的に明らかにすることである。平成24年度は、研究計画に従って、8月から9月にかけての1ヶ月間、ヘレフォードシャにてフィールドワークを行なった。昨年、実施できなかった地元行政当局者へのインタヴューを行なうとともに、最大の人口をもつポーランド人ならびにリトアニア人コミュニティの中核的メンバーに対してもインタヴューを行ない、さらに、移民労働者を支援する住民団体のメンバーに対しても追跡調査を行った。行政においては、県レベルの地元自治体と地元警察において、それぞれポーランド人が雇用されている。彼らは移民対策に専務しているわけではないが、移民コミュニティと行政とをリエゾンする役割を果たしている。彼らを通して、行政側の移民への対応の実態を把握した。ヘレフォードでは、定住したポーランド人とリトアニア人の、特にミドルクラスの移民を中心として、コミュニティが形成され始めている。彼らは、行政側から助成金を得て、週末に子弟に母国の言語と文化を教えるプログラムを立ち上げ、共同で運営を始めている。この週末学校が、彼らのコミュニティの中核を形成するようになっている。今回は、この学校を通じて、萌芽期にある彼らのコミュニティ形成の過程、ならびにすでに顕在化している内部での対立とそれに伴う分裂の様子を把握した。こうした学校の運営は、移民たちだけで独立して行なわれているのではなく、行政ならびに地域住民も間接的に関わっている。そうした形で、移民たちのコミュニティが孤立することなく、既存のコミュニティとの関係を緩やかに保ちつつ、この土地に形成されている様子を確認することができた。
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