研究実施計画に従って、主に西日本地域における諸藩を中心とした藩法史料の調査・収集に努めたが、東京・京都の図書館・史料館等での予備的調査・関連史料調査も併せて行う必要があったため、旧藩庁所在地等の現地調査がある程度できたのは、福井藩・金沢藩等の数藩にとどまった。本年度中に蒐集することができた史料は、筆写によるもの(釈文のほか史料の覚書等を含む)が400字詰原稿用紙約180枚、マイクロフィルム(写真撮影を含む)からの引伸し印画が約1500コマ、電子複写が約300枚、デジタルカメラ撮影によるものが約500コマにのぼる。このほか、江戸時代ないし明治時代初期の法制史料(写本・版本類)約30点を、古書店を通じて購入した。これらの蒐集史料の本格的な分析は次年度以降の作業となるが、既にこれまでの整理の過程でも、江戸時代の裁判制度とその運用のあり方、法曹的吏員の法実務の実態等に関する新知見を少なからず得ている。その主なものを示すならば、第一に、刑事事件が吟味筋ではなく出入筋の手続によって裁判される場合の具体的な取扱いについて従来知られるところははなはだ少なかったが、その特徴を知り得る具体例を見出したこと、第二に、訴訟手続の進行に応じて提出される各種書類について、作成にあたっての注意事項等を詳細に記した法実務書を見出したこと、第三に、牢屋の管理運営について、「口伝」を含む実務のあり方を良く知り得る史料を見出したことなどがある。なおこれまでの検討を踏まえ、江戸時代の法実務・裁判実務を担った法曹的吏員とその活動について、浅古弘・伊藤孝夫・植田信廣・神保文夫編『日本法制史』(青林書院刊)の中で一応の見通しを概説的に述べた。
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