平成25年度は、本研究のとりまとめをおこなった。 まず対席調停のプロセスを把握する基本的な理論枠組を二つの側面から構成した。すなわち、一つは、調停者が習得していると認識している問題解決型の手続構造を、その実践場面での柔軟な調整も視野に入れつつ、整理をおこなった。そしてもう一つは、対席調停での会話や振る舞いのダイナミズムに現れ人々のあいだで伝播する他者の行動のミメシスをアメリカの人類学理論を手掛かりに整理している。現在、その主要部分を、わが国の対席調停での対話のデータに即して分析検討を進めており、その一部を近く学術論文としてまとめ、公表を予定している。 わが国の司法書士会の調停機関における対席調停の実情に関しては、関係者の同意のもとの立ち合いや当該機関の関与司法書士による研究会への参加により、重要な知見を獲得した。研究テーマの性質上、研究成果として公表可能なデータは制約されるが、限定された事案は対席調停に現れる多くの事案の中でどのような位置づけを与えられるべきかを解釈する視点が獲得されている。 また、本研究では、わが国の対席調停を分析するにさいしても、そのモデルとなりそして普及定着しているアメリカの対席調停を念頭においており、アメリカの実情の正確な把握に努めた。アメリカの制度は州レベルの個性が強いことが指摘されているが、本研究ではとくにニューヨーク市周辺に焦点を絞り、複数の民間調停機関への調査を進めている。その成果として、各機関の機能や運営のあり方は一般的に把握することは難しく、当該機関の設立・成長の経緯、それとも関連する当該機関の性格、連携諸機関との関係、地域的条件などと密接に関連して多様なのではないかという仮説を得るに至っている。この問題は、モデルとされたアメリカほどの活動実績が上がらないわが国の民間調停のあり方を再検討するための極めて重要な今後の課題であると思われる。
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