本年度は最終年度であるので、成果の総括を念頭に置きつつ、次の作業に取り組んだ。 第一に、東日本大震災とその後の原発事故を受けて、予測困難なリスクと事後的賠償・予防的介入との関連をめぐる考察の暫定的な成果を、第6回基礎法学総合シンポジウム「巨大自然災害・原発災害と法―基礎法学の視点から」(2012年7月7日、日本学術会議講堂)にて、「科学的不確実性と法──巨大地震と原発事故から何を学ぶか」のタイトルの下で報告し、その概要を『法律時報』2013年3月号(85巻3号、日本評論社)に公表した。 第二に、前年度に第9回東アジア法哲学シンポジウム(台湾・台北市、政治大学)にて行った研究報告「福島原子力発電所事故と道具主義的法文化」を、同タイトルにて、論文集『後繼受時代的東亞法文化──第八屆東亞法哲學研討會論文集』(陳起行=江玉林=今井弘道=鄭泰旭編、元照出版公司、2012年)に公表した。 第三に、上記の二報告をさらに展開した研究として、「損害賠償と予防原則の法哲学──福島原子力発電所事故をめぐって」(平野仁彦=亀本洋=川濱昇編『現代法の変容』有斐閣、2013年2月、263-283頁)を公表した。 以上の一連の作業に取り組むなかで、予防的介入が緊急措置の名の下でいわゆる「悪法」を呼び込む危険性の大きさをあらためて認識すると同時に、そうした負の可能性の現実化を阻む安全策としての、成熟した市民的政治文化、ならびに、非道具主義的な「法の支配」についてさらに考察を深める必要を痛感することとなった。
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