共同漁業権は、漁民の入会(いりあい)的な利用を近代的な物権として認めた明治漁業法上の専用漁業権を引き継ぐものであり、漁村の地先の海・川を漁民が管理・利用するための基盤である。漁民による海・川の漁業的な利用が経済、社会情勢の変化の中で縮小していく中で、従来の漁業的な利用に伴ってきた管理がなされなくなっている一方、里山に代表される地域の共通資源を「コモンズ」として管理しようという動きがあり、沿岸海域において「里海」といった概念が生み出され、コモンズとしての海・川の価値を再評価し、管理・利用していこうという試みが始まっている。本研究は、こうしたコモンズ的な海・川の管理・利用と従来の漁業的管理・利用の調整を漁業権に基づいて行うことができるかどうか、現地実態調査を中心に調査・研究を行うものである。 研究初年の平成22年度は、高知県において現地調査および研究会を行った。海については、高知県漁業協同組合を訪問し、現地調査を行った。その成果の一部は雑誌論文として公表した(緒方賢一「漁業権による沿岸海域の管理可能性」(下記11.参照))。川については、日本最後の清流と呼ばれる四万十川の内水面漁協および連合会等を訪問し、四万十川の漁業的利用実態と、新しいコモンズ的利用の可能性について調査を行った。四万十川について、調査結果の分析は来年度以降の課題となるが、追跡調査も含め、23年度も継続して調査を行う予定である。また、現地調査の過程で、今後の調査研究を推進していくための課題もいくつか明らかになった。研究会を通じてこの問題について共通認識をもつことができ、次年度以降の調査において課題を克服するためにいくつかの試みを行うこととした。22年度は、研究のスタートの年であったが、課題認識の共有、現地調査の試験的実施、資料収集等、研究計画上の課題について十分に成果を上げることができた。
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