研究概要 |
研究代表者の池田康弘(熊本大学)は,懲罰的損害賠償制度の訴訟当事者の意思決定に与える効果について考察を行った。一般に,懲罰的損害賠償制度は加害者の悪質な加害行為を抑止し,被害者を救済する制度であると捉えられており,法と経済学に関する主要な先行研究では,被害者の受取額と加害者の支払額を分離させるディカップリング制度(Decoupling Award)において,懲罰率を上げることが望ましいと記述されている。代表者のH23年度の研究は,ディカップリング制度のもとでは,加害者の加害行為を抑止できず,逆に被害者を不利な状況に至らせるということを示した。この研究の一部は,2011年度日本応用経済学会(中京大学)および,2011 Institutions and Economics International Congress (Fukuoka)にて報告を行った。その後追加的分析を行い,現在海外レフェリー誌への投稿を準備している。 研究分担者の座主祥伸(関西大学)は,上訴制度が裁判官の判決の意思決定に与える影響と訴訟当事者の行動に与える影響について主に考察した。訴訟当事者の行動を考察する法と経済学に関する文献の多くでは,一方において,裁判官は社会厚生を最大化するbenevolentな主体として記述されているが,他方において,利己的な裁判官に関する先行研究では,訴訟当事者の行動の考察は行われてはいない。分担者のH23年度の研究では,これらふたつの文献を結びつけ,上訴制度が,裁判官の判決を通して,どのように訴訟当事者に影響を与えるのかについて考察した。この研究の一部は,2011年度日本法と経済学会全国大会(京都大学)にて報告を行った。その後追加的分析を行い,現在海外レフェリー誌への投稿準備中である。
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