研究代表者の池田康弘は,民事裁判における懲罰的損害賠償の抑止効果に関する追加分析を行い,その考察を2012年度法と経済学会(上智大学)とThe 8th Annual Conference of the Asian Law and Economics Association(中国・山東大学)にて研究報告を行った。懲罰賠償は加害者の加害行為を抑止できそれゆえ潜在的被害者への被害を少なくするもとの一般に考えられているが,本研究では,裁判過程におけるAdversary System をモデルに組込み分析を行った。その結果,裁判において,懲罰賠償分の係争利益の増加により被告はさらなる抗弁を行い,それを見越した原告は提訴を委縮し,加害者は行為を止めないという結果を導出し,懲罰賠償は抑止をもたらすことができない場合があることを示した。研究分担者の座主祥伸は,上訴制度が存在する下で利己的な裁判官の行動に関する追加分析を行い,その考察を2012年度法と経済学会(上智大学)とItalian Society of Law and Economics Annual Meeting (Rome Tre University)にて研究報告を行った。紛争当事者(原告・被告)が裁判での判決に納得がいかない場合,裁判官にとっては自身の出した判決が上訴され,その後判決がくつがえされる可能性が生じる。自身の評判や昇進等に注意を払う利己的な裁判官は,両当事者が納得し上訴を防止するような判決を出す。ただ,このような両当事者が同時に納得してくれる判決は存在しないかもしれない。その場合,裁判官は当事者を説得する等の活動を行い,上訴防止を目指す。結果的に,利己的な裁判官は,両当事者が納得できるような「公平」な判決を求める。両研究者ともに研究成果は現在ある海外レフェリー誌に投稿中である。
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